実施段階のマネジメントとは、計画したプロジェクトを現実の形へ変えながら、問題や変更に対応し、要求条件に合う成果へ導く仕事です。
計画が完成しても、プロジェクトは自動的にゴールへ到着するわけではありません。実施中には、予定の遅れ、追加の要望、発注の行き違い、設備の不具合など、さまざまな出来事が起こります。
今回は、実施段階を支える4つの管理と、完成した施設や設備を正式に受け取る「検収」について学びます。
🧭 クイズ:実施中に変更の要望が出たらどうする?
🐥ぴよまる:いよいよ工事が始まったよ! 計画どおりに進めれば、あとは完成を待つだけだね。
🐔にわのとりさん:ところが、実施が始まってから新しい要望が出たり、予定外の問題が見つかったりすることもあるのじゃ。
🐥:じゃあ、利用者から変更を頼まれたら、すぐに直してあげればいいのかな?
プロジェクトの実施中に変更の要望が出たとき、最初に行うことはどれでしょう?
- A.要望した人の希望どおり、すぐに変更する
- B.変更を受け付けず、すべて当初の計画どおりに進める
- C.目的、予算、品質、スケジュールなどへの影響を確認する
😸うちのねこさん:Aかな。先に変えてしまえば、話し合いも短く済みそうニャ。
🐥:でも、壁を一つ動かしただけで、照明や空調にも影響が出るかもしれないよ。
🐶うらのいぬさん:正解は、Cの「目的、予算、品質、スケジュールなどへの影響を確認する」です。
変更には、費用の増減だけでなく、工期、品質、安全性、契約、ほかの設備や作業などへの影響が伴うことがあります。
Aのように、その場ですぐ変更すると、承認されていない費用が発生したり、別の作業との間に食い違いが生じたりする可能性があります。
一方、Bのようにすべての変更を拒む必要もありません。必要性と影響を確認し、決められた手続きで承認を受ければ、計画を見直すことができます。
🚧 実施段階のマネジメントで計画を現実へ移す
実施段階では、計画書や図面に描かれた内容を、工事、移転、設備導入、サービスの開始など、現実の活動へ移していきます。
ところが、現場では、計画時には分からなかった条件が見つかることがあります。資材の納入が遅れたり、既存設備との接続に問題が生じたりすることもあります。
そのような変化に対応しながら、プロジェクトの目的や要求条件を守るために行うのが、実施段階のマネジメントです。
公式ガイドでは、すべてのプロジェクトに共通する基本的な業務として、次の4つが示されています。
| 管理項目 | 中心となる役割 |
|---|---|
| リスク管理 | 起こり得る問題を考え、発生を防ぐ方法と発生後の対応を準備する |
| 変更管理 | 変更の必要性と影響を確認し、承認と記録を行う |
| 発注管理 | 発注の権限、承認、報告の手続きを整え、全体を把握する |
| 進捗管理 | 予定と実績を比べ、遅れや影響を確認して調整する |
この4つは、それぞれ独立しているわけではありません。
たとえば、納期の遅れというリスクが現実になれば、スケジュールの変更が必要になります。別の資材を使うなら、発注内容や品質、予算の確認も必要です。
⚠️ 1.リスク管理――問題を予想し、備える
リスク管理とは、プロジェクトの途中で起こる可能性のある問題をあらかじめ考え、発生を防ぐ方法や、発生した場合の対応を準備することです。
FMのプロジェクトでは、次のようなリスクが考えられます。
- 工期や納期の遅れ
- 予算の超過
- 契約内容の間違いや認識のずれ
- 発注や手配の漏れ
- 設計や仕様の間違い
- 事故や施工上のミス
- 運搬中の荷物の紛失や破損
- ICTや設備の不具合
すべてのリスクを完全になくすことはできません。そこで、起こりやすさと、起きた場合の影響の大きさを考え、重要なリスクから優先して対策します。
発生を防ぐ対策と、発生後の対策を考える
リスクへの対策には、大きく分けて二つの方向があります。
- 発生させないための対策:事前確認、試験、二重チェック、教育など
- 影響を小さくするための対策:予備品、代替方法、連絡体制、予備日など
たとえば、移転当日にネットワークが使えないリスクに対しては、事前に接続試験を行うことが予防策になります。万一使えなかった場合に備えて、代替回線や復旧連絡先を準備することは、影響を小さくする対策です。
🐥:失敗を当てる占いじゃなくて、困ったときに立ち止まらないための準備なんだね。
🐔:そのとおりじゃ。リスク管理は、怖がるためではなく、落ち着いて動けるようにするために行うのじゃよ。
🔄 2.変更管理――変える前に影響を確かめる
変更管理とは、当初の計画や要求条件に変更が必要になったとき、その必要性と影響を確認し、承認を受け、関係者へ伝え、記録に残すことです。
実施段階では、経営者や利用者から追加の要望が出るほか、現場の状況によって、当初の方法では実現できないことが分かる場合もあります。
変更を検討するときは、少なくとも次の点を確認します。
- なぜ変更が必要なのか
- プロジェクトの目的や要求条件に合っているか
- 品質や機能にどのような影響があるか
- 予算はいくら増減するか
- スケジュールに遅れが生じないか
- 契約や発注内容の変更が必要か
- ほかの工事や設備、利用者に影響しないか
影響を確認したら、プロジェクトの責任者や経営者など、定められた権限を持つ人の承認を得て対応します。
同時に、要望を出した人や関係者へ、採用するのか、見送るのか、その理由は何かを丁寧に説明します。
小さく見える変更にも波紋がある
たとえば、会議室の壁を移動すると、床や天井だけでなく、照明、空調、消防設備、配線、家具の配置などにも影響することがあります。
一つの変更が、費用、工程、品質、契約へ波紋のように広がることがあるため、「少しだけだから」と口頭で済ませず、影響と決定内容を記録します。
第7章④で整理した要求条件は、変更を判断する基準にもなります。変更後も、実現すべき機能や性能を守れているかを確認することが大切です。
📦 3.発注管理――任せても全体を見失わない
発注管理とは、必要な工事、物品、サービスなどを、適切な内容、時期、条件で発注できるように管理することです。
規模の大きなプロジェクトでは、すべての発注を一人で行うとは限りません。家具、ICT機器、工事、移転作業など、機能ごとの担当者や外部のサービス提供者へ、一定の発注権限を委ねることがあります。
ただし、権限を委ねた場合でも、ファシリティマネジャーは、プロジェクト全体の発注状況を把握しておく必要があります。
誰が、何を、どこまで発注できるかを決める
発注の重複や漏れ、予算を超える発注などを防ぐため、事前に次の点を決めます。
- 誰が発注できるのか
- どの範囲や金額まで発注できるのか
- 発注前に誰の承認を受けるのか
- 発注後に何を、誰へ報告するのか
- 発注内容や変更履歴をどこへ記録するのか
発注は、契約や支出を伴う行為です。正式な契約手続きや会計処理は、購買部門、契約部門、財務・経理部門などが、それぞれの権限とルールに基づいて行います。
FM組織は、必要な仕様、数量、納期、設置場所などの情報を整理し、関係部門の手続きと判断を支えます。
🐶:外部へ発注しても、何を頼み、どこまで進んでいるのかを確認する責任まで手放すわけではありません。
📅 4.進捗管理――予定と実績の差を確かめる
進捗管理とは、プロジェクトが予定どおり進んでいるかを確認し、遅れや問題があれば、関係者と調整することです。
進捗管理の内容は、プロジェクトによって異なります。特にワークプレイスづくり、建物建設、大規模改修などでは、工事の進み具合を管理する仕事が大きな割合を占めます。
定期的な会議や報告によって、次の内容を確認します。
- 予定していた作業が完了しているか
- 現在、どの作業を行っているか
- 遅れている作業や未解決の問題はないか
- 次に始める作業の準備ができているか
- 予算や品質へ影響する変更がないか
遅れが出たときは、全体への影響を見る
一つの作業が遅れると、その後に続く工事、設備の設置、引っ越し、利用開始などにも影響することがあります。
遅れが見つかったときは、原因を確認し、影響を受ける関係者と調整します。必要に応じて、作業の順番、担当者、実施方法、全体スケジュールなどを見直します。
追加費用や予算変更が生じる場合は、購買部門、財務・経理部門、経営者などと情報を共有し、必要な判断を受けます。
進捗管理は、予定表にチェックを付けるだけではありません。プロジェクト全体のつながりを見ながら、ゴールまでの道を調整する仕事です。
🔗 4つの管理は連動している
リスク管理、変更管理、発注管理、進捗管理は、別々の箱に入った仕事ではありません。
| 起きたこと | 連動する管理 |
|---|---|
| 資材の納入が遅れそうになった | リスク管理と進捗管理 |
| 別の資材へ変更することになった | 変更管理と発注管理 |
| 変更によって追加費用が生じた | 変更管理と予算管理 |
| 工期の見直しが必要になった | 進捗管理と関係者調整 |
一つの出来事を一つの担当だけで処理すると、別の場所に影響が残る可能性があります。
第7章⑥で整えたプロジェクト体制と情報共有の仕組みは、こうした管理を横につなぐために働きます。
✅ 検収とは?要求条件に合うか確かめて受け取る
検収とは、工事の終了後や、家具・設備などの購入・設置後に、完成したものを検査し、問題がないことを確認して正式に受け取ることです。
「工事が終わった」「品物が届いた」というだけで、検収が完了するわけではありません。
受け取る施設、設備、家具などが、承認された計画や要求条件、契約内容に合っているかを確認します。
検収で確認する主な内容
- 要求した機能や性能を備えているか
- 図面や仕様書どおりにつくられているか
- 数量や設置場所が正しいか
- 安全に使用できるか
- 傷、破損、動作不良などがないか
- 完成図書、取扱説明書、保証書などがそろっているか
- 鍵、予備品、付属品などが引き渡されているか
確認後は、請負代金や購入代金の支払い手続きを行い、施設の鍵、図書、予備品などを受領します。
支払い、契約、資産登録などの正式な手続きは、購買部門、財務・経理部門、資産管理部門などが、それぞれの権限に基づいて行います。
FM組織は、現物や仕様の確認結果を整理し、必要な手続きと引継ぎを支えます。
不具合が見つかったら記録して再確認する
検収で傷や不具合、要求条件との違いが見つかった場合は、口頭の約束だけで済ませません。
不具合の内容、処置方法、対応期限などを文書にして取り交わし、処置が終わったあとに改めて確認します。
検収は、相手の仕事に点数を付けるための行為ではありません。利用者が安全に使い始められる状態かを確認し、責任の境目を明確にする仕事です。
🧪 コミッショニングは機能や性能を確かめる方法
検収では、専門的な第三者機関などによるコミッショニングを採用することがあります。
コミッショニングとは、建物や設備、システムなどが、要求された機能や性能を発揮できるかを検証するプロセスです。
単に機器の電源が入るかを確認するだけではありません。設備同士が連携し、建物全体として求められた働きをしているかを確かめます。
また、コミッショニングは完成時だけに行うとは限りません。企画・設計段階から施工、運用段階まで継続して行われる場合もあります。
この記事では、検収における機能確認との関係を紹介するにとどめます。完成後の評価については、次回の記事で詳しく学びます。
📚 実施段階のマネジメントのポイントまとめ
- 実施段階では、計画を守るだけでなく、現実の変化に対応する
- リスク管理では、発生を防ぐ対策と影響を小さくする対策を準備する
- 変更管理では、目的、要求条件、予算、品質、工程などへの影響を確認する
- 発注管理では、権限、承認、報告のルールを定め、全体を把握する
- 進捗管理では、予定と実績を比べ、遅れの影響を含めて調整する
- 4つの管理は相互に連動している
- 検収では、完成したものが要求条件に合っているか確認して受け取る
- 不具合は、内容、処置方法、期限を記録し、処置後に再確認する
🌱 今日のまとめ
実施段階のマネジメントは、計画書を守らせるためだけの仕事ではありません。
現場で起きた変化を受け止め、目的を見失わないように判断し、関係者と調整しながら、プロジェクトをゴールへ近づける仕事です。
🐥:予定どおりに進まないことがあっても、失敗と決まったわけじゃないんだね。
🐔:うむ。変化を見つけ、影響を確かめ、必要な判断につなげればよいのじゃ。
😸:寄り道をしても、地図と現在地が分かっていれば戻れるニャ。
🐶:そして最後は、要求条件に合う成果になっているかを検収で確かめ、次の人へ安全に渡します。
計画と現実の間には、いつも少しの揺れがあります。その揺れを整えながら、約束した未来を確かな形にしていく。それが、実施段階のマネジメントです。
🎁 おまけ劇場「壁を少し動かしたい!」
~小さな変更、大きな波紋~🐥ぴよまる:ぴよカフェの新しい会議室、だいぶできてきたね!
😸うちのねこさん:あの壁、もう少し右へ動かしたら、窓辺が広くなるニャ。
🐥:いいね! ほんの少しなら、今から頼んでも大丈夫かな?
🐶うらのいぬさん:まずは、その壁に何がつながっているか確認しましょう。
🐥:壁につながっているもの?
🐔にわのとりさん:照明、空調、火災報知設備、配線、扉、床材、天井材……。壁が動けば、一緒に動かさなければならないものがあるかもしれんぞ。
😸:壁一枚だと思ったら、ずいぶん大所帯だったニャ。
🐶:工事費だけでなく、工程や安全性、家具の配置にも影響するかもしれません。変更する前に、全体への影響を確認しましょう。
🐥:じゃあ、「壁を動かしてください」じゃなくて、「窓辺を広く使いたい」という目的を伝えたらいいのかな?
🐔:よいところに気づいたのう。目的が分かれば、壁を動かさずに家具の配置を変えるなど、別の方法も考えられるのじゃ。
😸:なるほど。壁を動かしたかったんじゃなくて、窓辺が欲しかったのかニャ。
🐶:変更の要望は、困りごとや目的を見つける入口にもなります。
🐥:変える前に、「何のため?」をもう一度確かめるんだね。
🌱小さな変更にも、いくつもの仕事がつながっています。 変更管理は、要望を止める門ではありません。要望の奥にある目的を見つけ、よりよい方法で実現するための分かれ道です。
🎮 次回予告
次回は、第7章⑧「プロジェクト完了時評価」です。
検収を終え、施設や設備を受け取っても、プロジェクト管理の仕事はまだ終わりではありません。
予算、要求条件、スケジュール、利用者満足度などを振り返り、得られた知見を次のプロジェクトやFM戦略・計画へ返していきます。
次回は、終わったプロジェクトを「経験」で終わらせず、組織の学びへ変える方法を見ていきましょう。
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📖 参考資料・関連情報
参考資料
『公式ガイド ファシリティマネジメント』
- 第7章「プロジェクト管理」
- 7.4「プロジェクトの進め方と実施」
- 7.4.2「実施の段階」145~147ページ
- リスク管理:145ページ
- 変更管理:145~146ページ
- 発注管理:146ページ
- 進捗管理:146ページ
- 検収:146ページ
- コミッショニングに関する用語解説:146ページ
この記事では、公式ガイドに示された実施段階のリスク管理、変更管理、発注管理、進捗管理、検収を、初心者が一連の流れとして理解できるように整理しました。
リスク対策を「発生を防ぐ対策」と「影響を小さくする対策」に分けた説明や、ぴよカフェの変更管理の事例は、公式ガイドの内容を理解しやすくするために加えた補足です。
プロジェクト完了時評価の詳しい内容は、次回の第7章⑧で扱います。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。