🔎 FMの調査・分析は何のために行う?
FMの調査・分析は、ファシリティの現状や周囲の環境を把握し、根拠のあるFM施策を立案するために行います。 前回は、FM目標とFM課題をもとに、進む方向を決める「FM施策」について学びました。
しかし、現在の施設がどのように使われ、どのような変化が起きているのかを知らなければ、本当に必要な施策は選べません。
そこで、建物や設備の状態、利用者の声、コスト、スペースの使われ方、社会や市場の動きなどを調べ、施策を考えるための情報を整えます。
🐥ぴよまる:調査って、数字をたくさん集めればいいの?
🐔にわのとりさん:数字を集めるだけでは足りんのじゃ。まずはクイズで考えてみようかの。
🐥 ぴよまると考える3択クイズ
「会議室が足りない」という声が増えています。FM施策を決める前に、最初に行うこととして最も適切なのはどれでしょう?
- A:すぐに新しい会議室を増設する
- B:予約状況、実際の利用状況、混雑する時間帯、利用者の声などを調べる
- C:会議室を使わないよう、全員へ呼びかける
🐥:本当に部屋が足りないのか、使い方に偏りがあるのか、まだ分からないよね。Bかな?
😸うちのねこさん:Aなら、オレ専用の静かな部屋が増える可能性もあるニャ。
🐶うらのいぬさん:正解はBです。 「足りない」という声だけで増設を決めると、特定の時間帯だけ混雑している、予約は多いのに実際には使われていない、といった状況を見落とす可能性があります。 まず現状を調べ、その情報を分析してから、増設、用途変更、予約方法の改善などの施策を検討します。
😸:増やす前に、今ある部屋が本当に使われているか確かめるのニャ。
🧭 調査と分析はどう違う?
調査と分析は、似ているようで役割が異なります。
- 調査:判断に必要な情報やデータを集める
- 分析:集めた情報を整理・比較し、傾向や関係を読み取る
たとえば、会議室の予約記録と実際の利用状況を集めるのが調査です。
二つを比較し、「予約は埋まっているが、実際には使われていない時間がある」と読み取るのが分析です。
現状を評価した結果、判断に必要な情報が不足している場合には、目的に応じて追加の調査を行います。
調査と分析の進め方は、扱う課題や必要な判断によって異なります。
調査や分析そのものを目的にせず、得られた情報をFM課題の把握やFM施策の立案へつなげることが大切です。
🔺 第9章の評価結果をFM戦略へ活かす
FM施策を考えるときは、第9章で扱う品質・財務・供給の評価結果を、FM戦略立案の基礎情報として使います。
- 品質評価:ファシリティの品質や利用者満足度などに関する評価
- 財務評価:ファシリティコスト、施設資産、施設投資などに関する評価
- 供給評価:施設面積、施設利用度、サービスの供給状況などに関する評価
これらの評価結果を目標と比較し、その差を分析することで、今後の改善方針やFM目標、FM課題を検討します。
第6章では、評価結果を受け取ってFM戦略やFM施策へつなげる流れを扱います。品質・財務・供給の評価項目や評価方法の詳細は、第9章で学びます。
現状評価で確認される主な情報
公式ガイドでは、FM施策を検討するための現状評価として、次のような情報が挙げられています。
- 利用者意識・満足度調査:施設を利用する人の評価や満足度を確認する
- ファシリティコスト調査:施設の運営や保有にかかる費用を確認する
- 施設利用度調査:施設やスペースがどの程度利用されているかを確認する
- 組織近接度調査:連携する組織同士の位置関係が業務に合っているかを確認する
ここでは評価方法を詳しく学ぶのではなく、こうした情報がFM課題や施策を考える材料になることを押さえておきましょう。
🌍 FMの調査・分析で行う追加調査
第9章で扱う品質・財務・供給の評価結果だけでは、FM課題の把握やFM施策の立案に必要な情報が十分に得られない場合があります。
その場合は、公式ガイドに示されている次の調査を、必要に応じて実施します。
1.社会動向調査
企業活動を取り巻く社会的要因のうち、特に影響の大きいものを調べます。
法規制や会計基準の変更、政府の重要政策、関係省庁の動きなどが主な対象です。
2.市場動向調査
不動産市場の動向を把握するため、土地・建物の取引価格、周辺地域の賃料相場、オフィスの空室率、施設種類ごとの需要状況などを調べます。
移転、賃借、取得、売却などのFM施策を検討する際の判断材料になります。
3.施設状況調査
不動産取引の過程で行われるデューデリジェンスなどにより、施設の状況を詳しく調べます。
主な内容には、登記や抵当権、賃貸借契約などの法的調査、建物の収益性に関する経済的調査、建物の状態や土壌汚染などに関する物理的調査があります。
4.業務・行動特性調査
施設のあり方を検討するため、施設内で行われる業務と、それに伴う利用者の行動を調べます。
現場観察、ヒアリング、アンケートなどにより、業務の流れやスペースの使われ方を確認します。
5.類似事例調査
同業他社や、企業規模・業務内容が似ている企業の情報を調べ、自社の現状と比較します。
他社情報は、FM施策を検討する際の比較情報として役立ちます。代表的な調査方法の一つがベンチマーキングです。
6.リスク要因調査
施設に関するリスクへの対応として、地震・火災時の緊急対応、施設の一部が機能停止した場合の代替機能などを調べます。
ICTに関するコンピュータウイルスやネットワークセキュリティなども重要な調査対象です。
リスクへの対応では、人員配置、組織、業務内容、社内ルール、社内部署との関係、社外との関係なども含め、総合的に確認します。
🐥:建物の中だけでなく、社会や市場まで調べるんだね。
🐔:ファシリティは、外の世界から切り離されておらんからのう。周囲の変化を知らなければ、これからの施策は考えられんのじゃ。
💡 FMの調査・分析で使われる代表的な手法
公式ガイドの図表6.2.4「代表的な調査分析手法」には、FM施策の立案に役立つ22の手法が示されています。
以下の一覧は、図表6.2.4に掲載された手法と概要をもとに、初めて学ぶ人向けの補足を加えたものです。
手法の名称と対象範囲は公式ガイドに沿い、「やさしい補足」では、どのような場面で役立つのかを簡潔に説明しています。
| 手法 | 公式ガイドで扱う内容 | やさしい補足 |
|---|---|---|
| 不動産鑑定 | 土地や建物などの資産価値を評価する | 売買、賃貸、保有継続などを判断するための材料になります。 |
| 財務分析 | 財務諸表などの数値から企業の状態を把握する | 施設に関する判断を、経営や財務の状況と結びつけます。 |
| プロブレム・シーキング | 要求条件を整理し、問題を明らかにする | いきなり解決策を決めず、「何を解決すべきか」を整理する方法です。 |
| 施設面積評価 | 施設面積や利用状況の妥当性を評価する | 広すぎる、狭すぎる、使われ方に偏りがあるといった状態を確認します。 |
| 快適性評価 | 温熱、音、光、空間などを快適性の面から評価する | 測定値と利用者の感じ方を組み合わせて考える場合があります。 |
| 組織近接度関連分析 | 業務上連携する組織同士の位置関係を分析する | 頻繁に連携する部署を近くに配置する必要があるか検討します。 |
| 評価グリッド法 | 人が対象をどのような基準で評価しているかを把握する | 利用者への面接などから、「なぜそう感じるのか」を段階的に掘り下げます。 |
| SD法 | 対になる言葉を用いて印象を段階評価する | 「明るい―暗い」「開放的―閉鎖的」などの印象を数値として整理します。 |
| 評価尺度法 | 段階的な尺度を用いて評価を回答してもらう | 満足、やや満足、普通などの選択肢で評価を集めます。 |
| ベネフィット構造分析 | 利用者が感じる効果を重要度や満足度などから評価する | 利用者が何を重視し、何に満足しているかを整理します。 |
| ポートフォリオ分析 | 複数の対象を二つの評価軸で分類する | 施設や施策を比較し、維持、改善、見直しなどの判断を助けます。 |
| ベンチマーキング | 優れた事例を基準として、自組織との違いを分析する | 数値を比べるだけでなく、優れた業務の進め方から学びます。 |
| シナリオプランニング | 複数の将来像と、それに応じた戦略を考える | 未来を一つに決めつけず、変化に備えて複数の道を用意します。 |
| キャッシュフロー分析 | 将来の資金の流れをもとに投資の価値を判断する | 費用や収入が発生する時期も考慮して、施設投資を検討します。 |
| AHP分析 | 複雑な判断を階層化し、選択肢の優先順位を検討する | 費用、安全性、利便性など、複数の基準を使って案を比較します。 |
| 相関分析 | 二つのデータの関係の強さを調べる | 一方が変化したとき、もう一方も変化する傾向があるかを確認します。 |
| 多変量解析 | 複数のデータを使い、複雑な関係や特徴を分析する | 多くの要素が関わる状況を、分かりやすい形に整理するために使います。 |
| パレート図 | 問題を大きい順に並べ、主要な要因を把握する | 影響の大きな問題から優先して取り組むために役立ちます。 |
| KJ法 | 情報をカードに書き、似た内容をまとめて整理する | ばらばらの意見や情報から、全体像や新しい関係を見つけます。 |
| デルファイ法 | 専門家への質問を繰り返し、意見を集約する | 将来予測など、すぐに答えが出ない問題を検討するときに使われます。 |
| ブレーンストーミング | 自由にアイデアを出し、発想を広げる | 批判を急がず、多様な案を出してから整理します。 |
| 特性要因図 | 問題と、その原因として考えられる要因を整理する | 魚の骨のような形で表すため、フィッシュボーン・チャートとも呼ばれます。 |
ベンチマーキングとシナリオプランニングについて
ベンチマーキングとシナリオプランニングも、図表6.2.4に代表的な調査分析手法として掲載されています。
さらに公式ガイドでは、次節の6.2.4「ベンチマーキングとシナリオプランニング」で、この二つを詳しく説明しています。
そのため、この記事では図表に沿った概要にとどめ、具体的な進め方は第6章⑤で学びます。
手法は「何を知りたいか」に合わせて選ぶ
調査・分析では、難しい手法を使えばよいわけではありません。
まず、何を明らかにしたいのかを考えます。
- 現状や利用状況を知りたいのか
- 利用者の評価を知りたいのか
- 複数の案を比較したいのか
- データ同士の関係を知りたいのか
- 意見やアイデアを整理したいのか
- 将来の変化を考えたいのか
目的を明らかにしてから、必要な情報と適切な手法を選びます。
一つの調査だけで判断せず、必要に応じて複数の情報を組み合わせることもあります。
🐶:手法は答えを自動的に出してくれる道具ではありません。判断に必要な情報を、見やすく整理するための道具です。
😸:道具を増やす前に、何を探しているのか決めるのニャ。
📚 ポイントまとめ
- FMの調査・分析は、根拠のあるFM施策を立案するために行う
- 調査は情報を集めること、分析は情報を整理・比較して意味を読み取ること
- 品質・財務・供給の評価結果を、FM戦略や施策の材料として活用する
- 評価方法の詳しい内容は、第9章で扱う
- 必要に応じて、社会、市場、施設、業務、類似事例、リスクを調査する
- 調査・分析手法は、何を知り、何を判断したいのかに合わせて選ぶ
- 調査結果は答えそのものではなく、FM課題や施策を考えるための根拠になる
🌱 今日のまとめ
FMの調査・分析は、情報をたくさん集めることが目的ではありません。
施設や組織の現在地を知り、社会や市場の変化を確かめ、どのFM施策を選ぶべきか判断するために行います。
利用者の声、利用記録、財務情報、市場の動きなど、それぞれの情報は、ファシリティの一部分を映しています。
それらを目的に合わせて集め、整理し、比較することで、組織は思いつきではなく、根拠を持って未来への道を選べるようになります。
情報は、ただ集めただけでは宝の地図になりません。
何を知りたいのかという問いを持ち、判断に使える形へ整えることで、初めて未来への道を照らしてくれるのです。
🎮 次回予告
第6章⑤「ベンチマーキングとシナリオプランニング」へ
他社の優れた取り組みから、何を学べるのでしょうか。 そして、まだ決まっていない未来に、どう備えればよいのでしょうか。
次回は、外から学ぶベンチマーキングと、複数の未来を描くシナリオプランニングについて学びます。
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📖 参考資料・関連情報
- 『公式ガイド ファシリティマネジメント』第6章「FM戦略・計画」
- 6.2.3「FM施策立案のための調査分析手法」
- 115~117ページ
- 図表6.2.4「代表的な調査分析手法」
この記事は、公式ガイドに示されたFM施策立案のための現状評価、追加調査、代表的な調査分析手法を、初めて学ぶ人向けに整理したものです。品質・財務・供給の詳しい評価方法は、第9章で扱います。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。
🎁 おりたたみ劇場「会議室が足りない」の本当の姿を調べよう
📍調べた情報
- 予約表では、会議室はほぼ一日中埋まっている
- 利用者からは「必要な時間に予約できない」という声がある
- 現地で確認すると、予約時間になっても使われていない部屋がある
- 予定より早く会議が終わっても、予約がそのまま残っている
- 2人の打合せに、大人数用の会議室が使われている
🛠️ 調査結果から考えられるFM施策
- 使わなくなった予約を解除しやすくする
- 会議が早く終わったら、自動的に空室へ戻せる仕組みを検討する
- 少人数用と大人数用の会議室を使い分ける
- 小規模な打合せスペースを増やす
- 改善後も不足が続く場合に、用途変更や増設を検討する
🔍 一つの情報だけでは、施設の状態を十分に判断できないことがあります。利用者の声、記録、現場の状況を組み合わせることで、FM課題をより正確に捉えられます。🐥:情報を重ねると、地図に本当の道が見えてくるんだね!