生産性評価とは、ワークプレイスが仕事を支え、成果を生み出しやすい環境になっているかを確かめる評価です。
仕事が思うように進まないとき、本人の集中力や能力だけが原因とはかぎりません。
必要な資料が見つからない。オンライン会議のたびに接続でつまずく。相談したくても、周囲へ声をかけにくい。集中したいのに、落ち着ける場所がない。
こうした小さな妨げが積み重なると、働く人の時間や力は、少しずつ失われていきます。
生産性評価では、働く人を急がせるのではなく、ワークプレイスが仕事を支え、成果を生み出しやすい状態になっているかを確かめます。
今回は、仕事の量だけでは捉えにくい、オフィスの生産性について学びます。
🎯 今日のクイズ|生産性の高いオフィスとは?
🐥ぴよまる:生産性が高いオフィスって、みんなが休まず、速く仕事をしている場所なのかな?
😼うちのねこさん:机から一歩も動かずに、おやつまで手が届けば、移動時間はほぼゼロになるニャ。
🐥:仕事に必要なものより、おやつの動線を優先していない……?
次のうち、オフィスの生産性を考えるうえで、もっとも適切なものはどれでしょうか。
- A:働く時間を長くし、できるだけ多くの仕事をこなす
- B:仕事の目的に合った環境を整え、成果を妨げる要因を減らす
- C:すべての社員を同じ場所、同じ方法で働かせる
🐶うらのいぬさん:正解は、Bの「仕事の目的に合った環境を整え、成果を妨げる要因を減らす」です。
生産性は、仕事の速さや量だけを表すものではありません。
正確に処理できる、集中できる、相談しやすい、新しいアイデアを考えられるなど、仕事の内容に応じて必要な成果は異なります。
長く働くことや、全員を同じ方法へ合わせることが、必ずしも生産性の向上につながるわけではないのです。
🧭 生産性評価とは?仕事を支える環境を確かめる
一般に生産性とは、投入したものに対して、どれだけの成果を生み出したかを表す考え方です。
基本的な関係は、次のように表されます。
生産性=アウトプット(産出)÷インプット(投入)
インプットには、働く人の人数、時間、費用、設備などがあります。
アウトプットには、製品の数、処理した業務の量、売上、付加価値などがあります。
工場で同じ製品をつくる場合は、「1時間に何個つくれたか」のように、成果を数えやすいでしょう。
しかし、オフィスでは、仕事の成果を単純な個数だけで捉えられない場合があります。
🐥:相談に乗ったり、企画を考えたりする仕事は、完成した数だけでは測れないよね。
🐔にわのとりさん:そうじゃ。短時間で出した案より、時間をかけて考えた案のほうが、大きな価値を生むこともある。オフィスの生産性は、量だけでなく質も見なければならんのじゃよ。
FMにおける生産性評価では、主にオフィスやワークプレイスが働く人の活動を支え、組織の成果へ貢献しているかを確かめます。
評価の対象は机や椅子だけではありません。
働き方、組織の仕組み、ICT、コミュニケーション、施設の運用なども含めて考えます。
🔄 定型業務と非定型業務では、見るべき成果が違う
オフィスの仕事は、大きく「定型業務」と「非定型業務」に分けて考えることができます。
定型業務
定型業務は、決められた手順に沿って、正確に、効率よく進める仕事です。
たとえば、次のようなものがあります。
- データを入力する
- 申請内容を確認する
- 書類を作成、処理する
- 問い合わせへ対応する
- 定められた方法で点検する
定型業務では、処理件数、所要時間、ミスの件数、やり直しの回数など、比較的数値で表しやすい指標を使えます。
非定型業務
非定型業務は、決まった答えや一つの手順がなく、状況に応じて考え、関係者と協力しながら進める仕事です。
たとえば、次のようなものがあります。
- 新しい企画を考える
- 問題の原因を分析する
- 複数の部門で方針を決める
- 新しい技術やサービスを開発する
- 顧客ごとに異なる課題へ対応する
このような仕事では、会議の回数や作成した資料の枚数だけでは、成果の質を十分に判断できません。
新しいアイデアが生まれたか、必要な知識が共有されたか、適切な判断へつながったかといった質的な視点も必要です。
😼:会議を10回開いたから、アイデアも10倍とはかぎらないニャ。
🐶:そのとおりです。活動の回数と、そこから生まれた成果を混同しないことが大切です。
💡 知的生産性とは?考える仕事を支える環境
現代のオフィスでは、情報を処理するだけでなく、知識や経験を組み合わせ、新しい考えや価値を生み出す仕事が増えています。
こうした活動に関わるのが「知的生産性」です。
知的生産性を支える活動には、次のようなものがあります。
- 一人で集中して考える
- 必要な情報をすぐに見つける
- 同僚へ相談する
- チームで意見を交わす
- 知識や経験を共有する
- 試しながら考えを深める
- 気分を切り替え、新しい視点を得る
ただし、アイデアや創造性そのものを、正確な一つの数値で測ることは簡単ではありません。
そこでFMでは、「知的生産性を直接測り切る」ことよりも、仕事を支える環境が整っているか、反対に仕事を妨げるものがないかを確認します。
🐥:よいアイデアが何個生まれるかを、建物が約束することはできないよね。
🐔:うむ。しかし、集中できない、相談する場所がない、情報へたどり着けないといった妨げを減らすことはできる。人の力を引き出しやすい環境をつくることが、FMの役割なんじゃ。
🧩 生産性を支える3つの要素
生産性は、オフィスの内装や設備だけで決まるものではありません。
公式ガイドで紹介されているSOFモデルでは、知的生産性に関わる要素を、次の3つの関係から捉えています。
| 要素 | 主な内容 |
|---|---|
| Style(働き方) | 集中、相談、情報共有、学習、コミュニケーション、働く場所や時間の選び方 |
| Organization(組織) | 経営理念、目標、制度、権限、評価、人材育成、組織文化 |
| Facility(ファシリティ) | 立地、動線、レイアウト、家具、ICT、温熱・光・音などの環境、施設サービス |
たとえば、自由に席を選べるワークプレイスを整えても、紙の書類が固定席の棚に置かれたままでは、仕事を進めにくくなります。
オンライン会議用の個室をつくっても、予約方法が分かりにくければ十分に活用されません。
交流スペースを設けても、相談や雑談を避ける組織文化であれば、新しいコミュニケーションは生まれにくいでしょう。
😼:立派な交流スペースをつくっても、「雑談禁止」と書いてあったら、かなり難しいニャ。
🐶:空間だけを変えるのではなく、働き方や組織の仕組みも一緒に整える必要があるということですね。
生産性を高めるには、働き方・組織・ファシリティの三つを切り離さず、互いのずれを見つけることが大切です。
🏢 ワークプレイスは、どのように仕事を支える?
ワークプレイスが生産性を支えているかを見るときは、仕事の流れに沿って確認します。
集中を支える
- 周囲の会話や視線が気になりにくい場所がある
- 作業に合った机や椅子を使える
- 光、音、温熱、空気の状態が仕事を妨げていない
- 長時間の作業でも、体への負担が大きくなりにくい
コミュニケーションを支える
- 必要な相手へ相談しやすい
- 少人数の打ち合わせ場所がある
- 対面とオンラインの参加者が話しやすい
- 偶然の会話や情報交換が生まれる場所がある
情報の利用を支える
- 必要な資料やデータを見つけやすい
- 通信環境が安定している
- 電源、モニター、会議設備などを使いやすい
- 場所が変わっても必要な情報へアクセスできる
移動や業務の流れを支える
- 人や物の動線に無駄な往復が少ない
- よく使う設備や場所へ移動しやすい
- 案内やサインが分かりやすい
- 部門や仕事のつながりに合った配置になっている
回復や気分転換を支える
- 落ち着いて休憩できる場所がある
- 仕事から一度離れ、気持ちを切り替えられる
- 働く時間と休む時間を区切りやすい
- 長時間労働を前提とした環境になっていない
🐥:休む場所も、生産性に関係するんだね。
🐔:疲れたまま働き続ければ、判断や集中の質が下がることもある。休憩は仕事をさぼるためではなく、力を回復するための時間でもあるんじゃよ。
📊 生産性評価とは?4つの方法で仕事との関係を確かめる
オフィスの生産性には、測りやすいものと、数字だけでは捉えにくいものがあります。
そのため、複数の方法を組み合わせて評価します。
① 業務データを確認する
定型業務では、次のようなデータを使うことができます。
- 一定時間に処理した件数
- 業務にかかった時間
- ミスややり直しの件数
- 問い合わせへの対応時間
- 移動や準備にかかった時間
- ICTや設備のトラブル件数
ただし、処理件数を増やすことだけを目標にすると、仕事の質が下がったり、無理な働き方につながったりする可能性があります。
量とともに、正確さや成果の質も確認します。
② 利用状況を調べる
ワークプレイスがどのように使われているかも、重要な手がかりです。
- 会議室や集中席の利用率
- 予約されたまま使われなかった回数
- 混雑する場所や時間帯
- 人や物の移動経路
- 特定の席や場所へ利用が偏っていないか
- 用意した設備やサービスが活用されているか
利用率が低い場所でも、すぐに不要とは判断できません。
災害対応室や機密性の高い打ち合わせ室など、利用回数は少なくても、必要な役割を持つ空間があるからです。
③ 利用者の感じ方を聞く
アンケートやヒアリングでは、次のような点を確かめます。
- 集中しやすいか
- 必要な相手へ相談しやすいか
- 情報や設備を使いやすいか
- 仕事に合った場所を選べるか
- 空間が仕事の妨げになっていないか
- 改善後に仕事が進めやすくなったか
公式ガイドでは、利用者が室内環境や仕事のしやすさを評価するSAPやOPIなどの評価手法も紹介されています。
こうした方法は、売上や処理件数だけでは見えにくい、ワークプレイスと仕事の関係を捉える手がかりになります。
④ 改善前と改善後を比べる
オフィスの移転や改修を行った場合は、実施前と実施後を比較します。
- 移動時間は短くなったか
- ICTトラブルは減ったか
- 集中や相談のしやすさは変わったか
- 会議室や作業場所の使われ方は変わったか
- 働く人の満足度や疲労感は変化したか
- 組織が目指した働き方に近づいたか
改善直後だけでなく、働く人が新しい環境へ慣れたあとにも確認することが大切です。
新しい空間が完成しても、使い方が定着するまでには時間がかかる場合があります。
🔗 快適性評価と生産性評価はどう違う?
前回学んだ快適性評価と、生産性評価は深く関係しています。
ただし、評価の焦点は少し異なります。
| 評価 | 主な問い |
|---|---|
| 快適性評価 | 健康で心地よく過ごせる環境になっているか |
| 生産性評価 | その環境が仕事や成果を支えているか |
たとえば、静かな部屋は、一人で集中する仕事には向いています。
しかし、活発に意見を交わすチームにとっては、声を出しにくく、相談しづらい環境になるかもしれません。
反対に、会話が生まれやすい開放的な空間も、集中作業をする人には負担となる場合があります。
🐥:同じ空間でも、何をする場所なのかによって評価が変わるんだね。
🐶:はい。快適かどうかだけでなく、そこで行う仕事を支えられているかを見るのが、生産性評価の大切な視点です。
⚠️ 生産性を「忙しさ」や「在席時間」で判断しない
席にいる時間が長い人や、いつも忙しそうに動いている人が、必ずしも高い成果を生み出しているとはかぎりません。
生産性を評価するときは、次のような誤解に注意します。
- 長く働くほど生産性が高いと考える
- 処理件数だけで仕事の質を判断する
- 会議や資料の数を成果として数える
- 在席していることを仕事の進み具合とみなす
- ワークプレイスだけを変えれば成果が上がると考える
- 部門や職種の違いを考えず、同じ指標で比べる
数字によって働く人を追い立てることが、生産性評価の目的ではありません。
評価によって仕事を妨げているものを見つけ、必要な環境や仕組みを整えることが大切です。
😼:忙しく見せる選手権なら、書類を抱えて早歩きすれば高得点になりそうだニャ。
🐔:見た目の忙しさではなく、何を生み出せたか、そして無理なく続けられるかを見る必要があるのう。
🤝 改善には、FM部門だけでなく組織全体の連携が必要
生産性の向上は、家具を入れ替えたり、レイアウトを変更したりするだけでは実現しません。
ワークプレイスを生かすには、働き方や制度、ICT、組織文化も合わせて整える必要があります。
そのため、FM部門は次のような部門と連携します。
- 経営部門
- 人事部門
- 情報システム部門
- 総務部門
- 施設を利用する事業部門
- 健康管理や安全衛生を担当する部門
ファシリティマネジャーには、働く人の要望を集めるだけでなく、経営が目指す方向と現場の活動をつなぐ役割があります。
働き方を変える場合には、新しい場所や設備を用意するだけでなく、利用方法を伝える、試してもらう、意見を集めるといった支援も必要です。
ワークプレイスは、完成しただけでは働き始めません。
人が使い方を理解し、組織の仕組みと結びついたとき、初めて仕事を支える環境になります。
✅ 身近な職場の生産性チェックリスト
身近な職場やワークプレイスを、次の視点で見てみましょう。
これは公式ガイドの評価表を再現したものではなく、仕事を支える環境を考えるために、記事独自で整理した簡易チェックリストです。
集中
- 一人で集中できる場所がある
- 光、音、温熱などが作業を妨げていない
コミュニケーション
- 必要な相手へ相談しやすい
- 対面とオンラインのどちらでも打ち合わせをしやすい
情報とICT
- 必要な情報を探しやすく、利用しやすい
- 通信や会議設備のトラブルで、仕事が頻繁に止まらない
レイアウトと設備
- 人や物の移動に無駄が少ない
- 机、椅子、設備が仕事や体格に合っている
働き方と組織
- 仕事の内容に合わせて、場所や方法を選べる
- 新しい環境を生かすためのルールや支援がある
回復と継続性
- 気持ちを切り替えられる休憩場所がある
- 無理な長時間労働を前提とせず、継続して働ける
すべての項目を一度に改善する必要はありません。
まずは、仕事が止まる、迷う、探す、待つ、やり直すといった場面を見つけます。
そこで何が起きているかを確かめると、改善すべき環境や仕組みが見えやすくなります。
📚 ポイントまとめ
- 生産性は、投入した時間や費用に対して、どのような成果を生み出したかを見る考え方
- オフィスの仕事では、量だけでなく、正確さ、判断、創造性など成果の質も大切
- 定型業務と非定型業務では、ふさわしい評価方法が異なる
- 知的生産性では、集中、相談、情報共有、学習などを支える環境を見る
- 働き方・組織・ファシリティを一体として考える必要がある
- 業務データ、利用状況、アンケート、改善前後の比較を組み合わせて評価する
- 生産性評価は、人を急がせるためではなく、仕事を妨げる要因を減らすために行う
🌱 今日のまとめ|生産性は、人を急がせる数字ではない
🐥:生産性って、短い時間でたくさん働くことだと思っていたよ。
🐔:速さや量が大切な仕事もある。しかし、考える、判断する、相談するといった仕事では、成果の質も欠かせんのじゃ。
🐶:仕事に合った場所や設備を整え、必要な情報へつながりやすくし、集中や協力を妨げるものを減らす。それがFMから生産性を支える方法です。
😼:つまり、オレの足置き箱も、体への負担を減らして仕事を支えるなら、検討の余地はあるニャ。
🐥:働く人をもっと急がせるのではなく、持っている力を発揮しやすい環境にするんだね。
生産性評価は、働く人の速さを競わせるためのものではありません。
仕事の目的に合った環境を整え、無駄な移動や待ち時間、設備の不具合、集中を妨げる要因を減らす。そして、働き方や組織の仕組みとワークプレイスをつなぐ。
人が無理なく力を発揮し、組織の成果へ結びつけられる環境を育てることが、FMにおける生産性評価なのです。
🎮 次回予告:安全性評価とは?防災・防犯・機能継続をどう確かめる?|第9章⑤
地震、火災、犯罪、停電、通信障害。
施設を利用する人と、そこで行われる仕事を守るために、FMではどのような安全性を確かめるのでしょうか。
🐥:非常口があれば、それだけで安全なのかな?
😼:オレは避難経路の途中に、おやつの備蓄場所も必要だと思うニャ。
🔗 関連記事
- FMの評価とは?品質・財務・供給から現在地を知る|第9章①
- 快適性評価とは?光・音・温熱・空気環境をどう測る?|第9章③
- ワークプレイスの運用管理とは?働く環境を整え続ける|第8章④
- FMのデータ管理とは?情報を集めて経営判断に活かす|第5章⑤
- 安全性評価とは?防災・防犯・機能継続をどう確かめる?|第9章⑤
📖 参考資料・関連情報
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会編『公式ガイド ファシリティマネジメント』第9章「評価」
- 9.2.4「生産性評価」212~219ページ
- 「オフィスにおける生産性とは」
- 「労働生産性」
- 「定型業務と非定型業務」
- 「生産性の阻害要因」
- 「知的生産性への注目」
- 「主なオフィスの生産性評価手法」
- 「ファシリティマネジャーは何をめざすか」
- SAP(Subjective Assessment of Workplace Productivity)
- OPI(Office Performance Indicator)
- SOF(Style/Organization/Facility)
- 図表9.2.13「SOFモデル」
- 図表9.2.14~9.2.16「SOF知的生産性評価結果」
この記事では、公式ガイドに示された一般的な生産性、定型業務と非定型業務、知的生産性、ワークプレイスの評価手法について確認したうえで、初心者が身近な職場を思い浮かべながら理解できるように整理しました。
本文中の「集中・コミュニケーション・情報・移動・回復」という分類や、身近な職場の簡易チェックリストは、公式ガイドの評価表を再現したものではなく、ワークプレイスと仕事の関係を考えやすくするために加えた独自の再構成です。
SAP、OPI、SOFについては、公式ガイドで紹介されている評価手法の位置づけを理解するために掲載しています。実際の評価では、自社の業務内容、組織の目標、働き方などに合った指標や方法を選ぶ必要があります。
本記事は公式ガイドの内容を参考にしていますが、原文の文章・図表を引用したものではなく、筆者が独自に再構成した解説です。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。