FM施策は、FM目標を実現し、FM課題を解決するための基本的な方向を示すものです。
🧭 FM施策は、課題を解決するための方向を示す
FM施策とは、FM目標を実現し、FM課題を解決するために、「どの方向で取り組むか」を示すものです。
前回は、FM目標を「目指す未来」、FM課題を「未来と現在の間にある、解決すべき差」として整理しました。
しかし、目標と課題が分かっただけでは、ファシリティは変わりません。
施設を引き続き使うのか、統合するのか。用途を変えるのか、働く場所を見直すのか。課題に応じて、進む道を選ぶ必要があります。
🐥ぴよまる:目的地と現在地が分かったら、次はどの道を通るか決めるんだね。
🐔にわのとりさん:その道筋にあたるのがFM施策じゃ。まずはクイズで考えてみようかの。
🐥 ぴよまると考える3択クイズ
利用者が減り、使われていないスペースの多い施設があります。FM施策として最も適切な考え方は、どれでしょう?
- A:空いている理由を調べず、そのまま使い続ける
- B:利用状況や将来の需要を調べ、継続使用・統合・用途変更・処分などを比較する
- C:すべての部屋へ新しい机を入れ、使っているように見せる
🐥:机を増やしても、利用者は増えないよね。Bかな?
😸うちのねこさん:Cなら、オレ専用の机がいくつもできそうニャ。
🐶うらのいぬさん:正解はBです。
FM施策は、最初から一つの方法に決めるものではありません。
施設の利用状況、将来の需要、コスト、立地などを調べ、複数の選択肢を比較します。そのうえで、FM目標を実現し、課題を解決できる方向を選びます。
😸:机を増やす前に、なぜ空いているのかを調べるのが先なのニャ。
🛠️ FM施策はどのように立てる?
FM施策は、経営戦略から突然生まれるものではありません。
次の順序で、少しずつ具体化していきます。
- 経営目標を確認する
組織がどのような未来を目指しているかを理解します。 - FM目標を設定する
経営目標を、品質・財務・供給の視点からファシリティの目標へ置き換えます。 - FM課題を整理する
現在や将来の状態とFM目標を比べ、解決すべき差を明らかにします。 - FM施策を立案する
課題を解決するために、ファシリティをどの方向へ変えるかを決めます。
たとえば、経営目標が「事業変革を進める」だったとします。
そこから、次のように展開できます。
| 段階 | 内容の例 |
|---|---|
| 経営目標 | 事業変革を進める |
| FM目標 | 新しい働き方と組織体制に対応できるファシリティを整える |
| FM課題 | 拠点が分散し、部門間の連携やスペース利用に無駄がある |
| FM施策 | 拠点の統合やワークプレイスの見直しを進める |
FM施策では、まだ工事の日程や細かな予算まで決めるわけではありません。
まず、「どの方向で課題を解決するのか」という大きな道筋を示します。その施策を、時期、予算、優先順位、実施体制などを含む計画へ落とし込むのが、中長期実行計画です。
🐥:FM施策は進む道を決めて、中長期実行計画は旅の日程を決める感じかな?
🐔:うむ。どの道を選ぶかと、いつ、どのように歩くかは、分けて考えると分かりやすいのじゃ。
🏢 FM施策の二つの大きな方向
FM施策は、大きく二つの方向に分けて考えられます。
1.施設の供給を変える施策
移転、建替え、増床、統合、処分など、施設の量や配置、所有のしかたを変える施策です。
新しい施設の取得や大規模な変更を伴う場合は、プロジェクトとして実施されることがあります。
2.既存施設を継続して使うための施策
現在の施設を使いながら、ワークプレイス、設備、運営方法、サービスなどを改善する施策です。
FMの標準や運営維持の見直し、設備の長寿命化などが含まれます。
二つの方向は、どちらか一方だけを選ぶとは限りません。
一部の施設を統合し、残した施設ではワークプレイスを改善するなど、複数の施策を組み合わせることもあります。
🤝 FM施策を支えるソーシング戦略
FM施策を考えるときは、「何をするか」だけでなく、その業務を誰が担うのかも検討します。これをFMソーシング戦略といいます。
たとえば、設備保守、清掃、警備、工事、調査などについて、次のような選択肢を比較します。
- 自社の人員で行う
- 業務の一部を外部の専門事業者へ委託する
- 業務プロセス全体を外部へ委託する
- 自社と外部事業者が役割を分担する
判断するときは、費用だけでなく、専門性、品質、緊急時の対応力、自社に残すべき知識なども考えます。
外部へ委託しても、FMの方針を決め、成果を確認・評価する責任まで外部へ移るわけではありません。最終的な管理責任は、自社のFM組織に残ります。
🐥:外へお願いすれば、全部お任せでいいわけじゃないんだね。
🐶:はい。誰に任せるかを決めることと、結果に責任を持つことは別です。
😸:おやつの仕入れは専門家に任せて、品質評価はオレが担当するニャ。
🐔:その体制には、監査が必要そうじゃのう。
📋 代表的なFM施策10例
公式ガイドでは、FM施策の例として、次の10項目が示されています。
1.施設の活用(継続・処分)
保有している土地や建物を評価し、引き続き使用するのか、売却や返却などによって処分するのかを判断します。
現在の利用状況だけでなく、将来の事業計画や需要も考慮します。
2.施設の統廃合
複数の施設を一か所へ集約したり、役割を整理して一部を廃止したりします。
業務効率、ファシリティコスト、資産効率、スペースの有効利用などの改善につながります。
3.施設の付加価値化(用途変更)
施設の用途を変え、新しい価値を持たせます。
たとえば、使われなくなった研修施設をオフィスや交流拠点へ変えるなど、既存の建物を活かしながら事業環境の変化へ対応します。
4.所有形態の変更(所有・賃借)
施設を自社で所有するのか、賃借するのかを見直します。
費用だけでなく、事業の変化へ対応しやすいか、長期間利用できるかなども含めて検討します。
5.テレワークの採用
在宅勤務、サテライトオフィス、フリーアドレスなど、時間や場所にとらわれにくい働き方を取り入れます。
働き方だけでなく、オフィス面積、ICT環境、コミュニケーション、安全管理なども合わせて考える必要があります。
6.ファシリティ標準の見直し
面積、設備、内装、家具などの標準を見直します。
必要以上に広いスペースや過剰な仕様を改めることで、使いやすさを保ちながらコストや面積を適正化できます。
7.ワークプレイス環境の改善
働き方や業務内容に合わせ、席、会議室、集中スペース、交流スペース、ICT環境などを見直します。
業務効率だけでなく、コミュニケーション、生産性、健康、ウェルビーイングにも配慮します。
8.運営維持改善・ゾーニング戦略
維持保全だけでなく、運用・サービスの手順や提供方法まで含めて、運営維持を見直します。
また、施設内を用途や管理条件によって区分するゾーニングにより、空調、照明、清掃、セキュリティなどを効率的に運用できる場合があります。
9.施設の長寿命化
建物や設備の状態を確認し、適切な修繕、更新、改修を行うことで、施設を長く安全に使えるようにします。
目先の修理だけでなく、ライフサイクル全体を見ながら、投資時期や方法を考えます。
10.BCMへの取り組み
災害などが起きたときにも、重要な業務を続けたり、早期に復旧したりできるよう、施設面から備えます。
避難や安全確保だけでなく、代替拠点、電源、通信、備蓄、復旧手順なども検討します。
🐥:建替えや統合だけじゃなくて、働き方や施設の使い方を変えるのもFM施策なんだね。
🐶:はい。新しい建物をつくることだけが解決策ではありません。今ある施設を活かし、運営方法を変えることも大切な選択肢です。
🌍 FM施策は外部環境も見て考える
FM施策は、社内の課題だけを見て決めるものではありません。
社会や市場、技術の変化によって、実現できる施策や必要となる対策が変わるためです。
主に、次のような外部環境を確認します。
- 社会経済環境
人口や働き手の変化、景気、物価、エネルギー価格、法令・政策など - 不動産環境
土地・建物の価格、賃料、空室率、地域ごとの需要、建設費など - 技術動向
ICT、AI、IoT、省エネ設備、建物管理システム、新しい工法など
たとえば、オフィスを増やす場合でも、建設費や賃料が上昇していれば、増築や移転以外の方法を検討する必要があります。
また、新しいICTや設備管理技術を活用すれば、建物を増やさずに働き方や運営方法を改善できるかもしれません。
外部環境を把握することは、流行を追いかけるためではありません。現在の施策が将来も実行可能か、よりよい選択肢がないかを確かめるために行います。
🐥:会社の中だけを見ていても、進む道は決められないんだね。
🐔:うむ。地図を描くには、周りの地形や天候も知らなければならんのじゃ。
⚖️ 複数のFM施策を比較して選ぶ
一つのFM課題に対して、考えられる施策は一つとは限りません。
たとえば、オフィスのスペースが不足している場合でも、次のような選択肢があります。
- 建物を増築する
- 新しいオフィスへ移転する
- 別の拠点を借りる
- 拠点を統合して配置を見直す
- フリーアドレスやテレワークを導入する
- 会議室や共有スペースの使い方を見直す
- 利用率の低い場所を別の用途へ変える
そのため、施策を選ぶときには、次のような点を比較します。
- FM目標の達成にどれだけつながるか
- 品質・財務・供給へどのような影響があるか
- 必要な費用と期待できる効果
- 実現までにかかる時間
- 実施に伴うリスク
- 法令や契約上の問題
- 利用者や関係部門への影響
- 将来の変化へ対応できるか
ファシリティマネジャーは、複数の案とそれぞれの影響を整理し、経営者が判断できる材料を示します。
最も新しい方法や、最も安い方法が、必ずしも最適とは限りません。組織の目的や課題に合い、経営者が納得できる施策であることが重要です。
🔭 施策を決めるときは将来の変化も考える
FM施策は、現在の問題だけに合わせるのではなく、将来の変化にも対応できるものでなければなりません。
- 働く人の数はどう変わるか
- 働き方や事業内容はどう変化するか
- 建物や設備はいつ更新時期を迎えるか
- エネルギー価格や建設費はどう動くか
- 災害や気候変動のリスクは高まるか
- 法令や環境基準は変わるか
- 新しい技術を利用できるか
将来を正確に言い当てることはできません。
だからこそ、一つの予測だけに頼らず、複数の可能性を考え、状況が変わったときに見直せる施策にしておくことが大切です。
この考え方は、第6章⑤で学ぶ「シナリオプランニング」へつながります。
🚦 FM施策から実行計画へ
FM施策で決めるのは、課題を解決するための方向です。
実際に行動へ移すためには、さらに次の内容を具体化します。
- いつ実施するのか
- どの施策を優先するのか
- どの程度の予算が必要か
- 誰が担当するのか
- どのプロジェクトとして実施するのか
- 実施後に何を評価するのか
これらは、中長期実行計画やプロジェクト計画の中で検討します。
つまり、FM施策を立てることはゴールではありません。
戦略として選んだ道を、実際に歩ける計画へ渡すための橋なのです。
📚 ポイントまとめ
- FM施策は、FM目標を実現し、FM課題を解決するための基本的な方向
- 経営目標、FM目標、FM課題、FM施策の順に具体化する
- FM施策には、施設の供給を変える方向と、既存施設を継続使用しながら改善する方向がある
- 施設の活用、統廃合、用途変更、所有形態の変更など、代表的な10の施策がある
- 一つの課題に対して複数の施策を比較し、品質・財務・供給への影響を考える
- FM施策は、経営者が納得し、実現可能なものであることが重要
- 選んだFM施策は、中長期実行計画やプロジェクト計画へ落とし込む
- FMソーシング戦略では、専門性・品質・費用などを踏まえ、業務を誰が担うかを決める
- 社会経済、不動産市場、技術動向などの外部環境も確認して、実現可能なFM施策を選ぶ
🌱 今日のまとめ
FM施策は、目標と課題を、実行へ向かう道筋に変えるものです。
同じ課題でも、施設を増やす、統合する、用途を変える、働き方を見直すなど、選べる道は一つではありません。
大切なのは、最初から答えを決めることではなく、複数の道を比べ、経営目標とFM目標に最も合う方向を選ぶことです。
そして、選んだ施策を中長期実行計画へ渡すことで、未来の地図に描かれた道が、実際に歩ける計画へ変わっていきます。
🎮 次回予告
第6章④「FMの調査・分析とは?」へ
よりよいFM施策を選ぶには、思いつきではなく、現状を正しく知るための情報が必要です。
次回は、利用者調査、コスト分析、市場調査など、FM施策の立案を支える調査・分析について学びます。
🔗 関連記事
📖 参考資料・関連情報
- 『公式ガイド ファシリティマネジメント』
- 第6章「FM戦略・計画」
- 6.2.2「FM目標、FM課題とFM施策」
- c.「FM施策の立案」
- 112~115ページ
- 図表6.2.3「経営戦略からFM戦略・施策例」
この記事は、公式ガイドに示されたFM施策の立案と代表的な施策例を、初めて学ぶ人向けに整理したものです。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。
🎁 おりたたみ劇場:ぴよまるの未来プランニング会議 ~小さな作戦会議が、大きな未来をうごかす!~
🐥ぴよまる:えー、それではただいまより、「未来の建物大作戦会議」をはじめまーす!
🐱うちのねこさん:議題は…「ぴよカフェをどうするか」ニャ。最近おやつの棚が混みすぎてるからニャ。
🐶うらのいぬさん:スタッフの休憩スペースも足りないし、テイクアウトの受け取りエリアも混雑気味ワン!
🐔にわのとりさん:ふむ…これは施設の用途変更+配置見直し+動線改善の出番じゃのう!
🛠️ にわのとりさんのワンポイント解説!
- 🗂 用途変更:カフェの一角を“テイクアウト専用カウンター”に
- 📦 配置の最適化:おやつ棚をゆったり配置し、導線を分ける
- 🧘 空間改善:裏に小さな休憩スペースを新設!
🐥ぴよまる:それでは、「ぴよカフェの混雑をどうするか会議」を始めます!
🐶うらのいぬさん:現在の課題は、テイクアウトのお客さんと店内を利用するお客さんの動線が重なっていることです。スタッフの休憩スペースも不足しています。
😸うちのねこさん:さらに、おやつの棚の前で渋滞が起きているニャ。これは見過ごせない重要案件ニャ。
🐔にわのとりさん:では、すぐに工事を決めるのではなく、考えられるFM施策を並べてみようかの。
🐥:まず、テイクアウト専用の受取場所をつくる!
🐶:空いている倉庫の一部を休憩スペースへ用途変更する案もあります。
😸:おやつ棚を二つに分ければ、渋滞も減りそうニャ。
🐔:うむ。整理すると、次のようになるのう。
- テイクアウトカウンターを設ける
- 客席と受取場所の配置を見直す
- 空いている場所の用途を変更する
- おやつ棚を分散し、人の動線を分ける
- 営業時間や受取方法など、運用のしかたを見直す
🐥:どれか一つに決めなくてもいいの?
🐔:複数の施策を組み合わせることもできるのじゃ。ただし、費用や効果、利用する人への影響を比べる必要があるぞい。
🐶:工事をしなくても、配置や運用を変えるだけで改善できる場合もあります。
😸:おやつ棚の分散は、少ない費用で大きな効果が期待できそうニャ。オレは客観的に提案しているニャ。
🐥:では、利用する人の声と混雑する時間を調べてから、どの案を選ぶか決めよう!
🐔:よい判断じゃ。現状を調べ、複数の道を比べ、目的に合う施策を選ぶ。それがFM施策の立案なのじゃ。
🏗️ 建物は簡単には動かせなくても、使い方や運営のしかたは変えられます。小さな工夫も、未来を変える立派なFM施策です。
🐥:未来のぴよカフェ、少しずつ動き始めたね!
😸:まずは、おやつ棚の利用状況を現地調査してくるニャ。
🐶:調査中の試食は認められていません。
😸:厳しい現場ニャ……。