要求条件とは、経営者や利用者、関係部門などから集まった要望を整理し、プロジェクトとして満たすべき基準へ変えたものです。
前回は、基本方針によって目指す方向を示し、実態把握によって現在地を確かめました。 次に行うのが、要求条件の作成です。
プロジェクトには、さまざまな立場の人が関わります。
経営者は事業への効果を求め、利用者は使いやすさや快適さを求めます。
財務部門は予算を確認し、ICT部門はシステムやセキュリティ、人事部門は働き方や人事施策との関係を考えます。
それぞれの要望を、ただ一つの箱へ入れるだけでは、プロジェクトは進みません。
今回は、多様な要望をどのように整理し、プロジェクトを計画・実行・評価するための要求条件へ変えるのかを学びましょう。
🐥ぴよまる:みんなの希望を全部かなえれば、よいプロジェクトになるのかな?
🐔にわのとりさん:すべてをそのまま採用できるとは限らん。目的や必要性を確かめ、優先順位をつけることが必要なのじゃ。
🧭 クイズ:要求条件はどのように作る?
さまざまな関係者から、たくさんの要望が集まりました。要求条件の作り方として、最も適切なものはどれでしょうか。
- A.最も多くの人が希望した要望だけを採用する
- B.プロジェクトの目的、必要性、予算、実現可能性などを確認して整理する
- C.最も大きな声で話した人の要望を優先する
🐥:多数決で決めるAも公平に見えるけど、少ない人数でも大切な条件がありそうだなあ。
😸:Cは声量の勝負ニャ。オレは静かな迫力で参加するニャ。
🐶うらのいぬさん:正解はBです。
要求条件は、多数決や声の大きさだけで決めるものではありません。
プロジェクトの目的、緊急性、必要性、予算、期間、技術的な実現可能性、法令などを確認し、プロジェクトとして採用する条件を整理します。
少数の人から出された要望でも、安全性、アクセシビリティ、業務上の必要性などに関わる場合は、重要な条件になることがあります。
💬 要望と要求条件は何が違う?
要望と要求条件は、似ているようで役割が異なります。
| 区分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 要望 | それぞれの立場から出される希望や困りごと | 会議室を増やしてほしい |
| 要求条件 | 目的や必要性などを確認し、プロジェクトの基準として整理した条件 | 利用実態にもとづき、必要な人数・室数・機能を備えた会議環境を確保する |
要望は、要求条件を考えるための大切な情報です。
しかし、要望をそのまま要求条件にすると、互いに矛盾したり、予算や期間を超えたりすることがあります。
たとえば、次のような要望が同時に出ることがあります。
- 個室を増やして集中しやすくしてほしい
- 壁を減らして部門間の交流を増やしてほしい
- 面積を増やしてほしい
- 賃料や工事費は減らしてほしい
- できるだけ早く完成してほしい
- 工事中も通常どおり施設を使いたい
どの要望にも、それぞれの理由があります。
ファシリティマネジャーは、要望の背景を確認し、プロジェクトの目的と照らし合わせながら、両立できる方法や優先順位を考えます。
🐥:要望を断る仕事じゃなくて、何を本当に必要としているのかを確かめる仕事なんだね。
🐔:そのとおりじゃ。言葉の表面だけでなく、その奥にある目的や困りごとを読み取る必要があるのじゃよ。
🎯 要求条件を作るときの6つの判断ポイント
公式ガイドでは、集めた要求を評価・選択するときの主なポイントとして、次の内容を挙げています。
1.緊急性と優先度
すぐに対応する必要があるか、ほかの条件より優先すべきかを確認します。
安全上の問題や法令への対応などは、優先度が高くなる場合があります。
2.立場ごとの必要性
経営者、組織、部門、個人など、それぞれの視点から必要性を確認します。
一つの部門だけに関係するように見えても、組織全体の事業継続や安全性へ影響する場合があります。
3.予算・期間内で実施できるか
承認された予算や予定期間の中で実現できるかを確認します。
必要性が高くても一度に実現できない場合は、実施時期を分けるなどの検討が必要です。
4.現在の技術で実現できるか
技術的に実現できるか、実現するための難しさやリスクがどの程度あるかを確認します。
新しい技術を使う場合は、実績、保守方法、将来の更新なども考えます。
5.法令・基準・ガイドラインへ適合するか
関係する法令、社内基準、FM標準、各種ガイドラインなどに適合しているかを確認します。
安全や法令に関わる条件は、「できれば満たしたい希望」と同じ扱いにはできません。
6.多数の要求か、少数の要求か
多くの人に共通する要求か、一部の人に関係する要求かを確認します。
ただし、少数だから無視してよいわけではありません。 障害のある利用者への配慮、特定業務に必要な安全対策、機密情報を扱う場所など、対象者が少なくても重要な要求があります。
😸:多数決は便利だけど、何でも決められる魔法ではないんだニャ。
🐶:はい。人数だけでなく、要求の内容と必要性を見ることが大切です。
⚖️ 絶対条件と希望条件を分ける
要求条件を整理するときは、絶対条件と希望条件を分けます。
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 絶対条件 | 満たさなければ、その提案を採用できない条件 | 法令、安全性、必要な業務機能、予算上限など |
| 希望条件 | 満たすことが望ましいが、代替案や調整の余地がある条件 | 付加的な機能、仕上げ、利便性の向上など |
絶対条件と希望条件を分けると、複数の提案を比較するときに、判断の軸が明確になります。
ただし、何を絶対条件とするかは、プロジェクトごとに異なります。
一度決めた分類を固定するのではなく、調査や協議によって新しい事実が分かった場合は、必要に応じて見直します。
🐥:全部を「絶対に必要」にしたら、優先順位がつけられなくなるね。
🐔:うむ。大切なものを守るためにも、希望との違いを明らかにする必要があるのじゃ。
👥 誰の要求を確認するの?
公式ガイドでは、要求条件の主な情報源を、経営者、利用者、関係部門、FM部門に分けて説明しています。
1.経営者の要求
経営戦略や中長期経営計画をもとに、プロジェクトの目的、施設の用途、規模、実施時期、予算、品質水準、プロジェクト管理の基本方針などを整理します。
経営者の要求は、利用者や関係部門から出される要望を、どの方向・範囲まで認めるかを判断する軸にもなります。
2.利用者の要求
利用者からは、主に品質や供給に関する要求を確認します。
部門や業務の特徴に応じて、アンケートやヒアリングなどを行い、現在の困りごとや必要な機能を把握します。
利用者の要望が、予算や運用上の制約を超える場合もあります。
ファシリティマネジャーは、要望の背景を確認し、必要な調整を行います。
3.関係部門の要求
プロジェクトによっては、人事、ICT、財務、法務、購買など、さまざまな部門が関わります。
たとえば、人事施策、情報セキュリティ、ネットワーク、調達手続き、会計処理などに関する条件は、施設の機能や運営にも影響します。
それぞれの正式な手続きや専門判断は、担当部門が行います。
FM部門は、プロジェクトへ影響する情報を集め、計画へ反映できるように支援します。
4.FM部門の要求
FM部門からは、法令改正、新しいリスク、環境保全、働き方、運営維持などの視点から、プロジェクトへ反映すべき条件を整理します。
組織にFM標準がある場合は、省エネルギー、セキュリティ、環境保全など、プロジェクトに必要な水準を選んで要求条件へ取り込みます。
FM標準が十分に整っていない場合は、今回作成した要求条件を仮の標準として扱い、実際の運用や評価を通じて見直し、組織の知識として育てていくこともできます。
🔗 要求条件は後の工程をつなぐ基準になる
要求条件は、計画段階だけで使う書類ではありません。
プロジェクトの後の工程でも、判断の基準として使われます。
| 工程 | 要求条件の使い方 |
|---|---|
| 基本計画 | どのような案を作るかを考える基準にする |
| 提案・選定 | 提案が必要な条件を満たしているか比較する |
| 設計・実施 | 目的や条件から外れていないか確認する |
| 変更管理 | 変更してよい部分と、守るべき部分を判断する |
| 検収 | 完成した施設、設備、サービスなどが条件を満たしたか確認する |
| 完了時評価 | 要求条件がどの程度実現したかを評価する |
最初に要求条件を曖昧にすると、提案を選ぶときも、完成したものを受け取るときも、何を基準に判断すればよいか分からなくなります。
要求条件は、プロジェクトの計画・実施・評価を一本につなぐ「ものさし」なのです。
🐥:最初に作った条件が、最後の確認にも使われるんだね。
🐔:そうじゃ。出発するときに決めた約束を、最後まで持って歩くのじゃよ。
📄 要求条件を与条件へ整理する
外部の設計者やサービス提供者へ提案を依頼するときは、要求条件を相手へ伝える必要があります。
公式ガイドでは、RFP(提案依頼書)の発行や入札を行う際、要求条件をもとに、外部へ提示する与条件を作成すると説明しています。
要求条件の内容を、そのまま外部へ渡せる場合もあります。
しかし、要求条件には、組織内部の事情、ノウハウ、機密情報などが含まれていることがあります。
そのため、必要な情報を選び、外部へ提示できる形に加工します。
このように、プロジェクトの目的や要求条件を整理し、設計者などへ伝える業務は、ブリーフィングと呼ばれることがあります。
| 言葉 | 役割 |
|---|---|
| 要望 | 関係者から寄せられた希望や困りごと |
| 要求条件 | 要望を評価・整理し、プロジェクトの基準へ変えたもの |
| 与条件 | 要求条件をもとに、外部へ提示できる形に整えた条件 |
与条件の作成や提示では、購買部門などの関係部門と連携します。
専門的な内容が多い場合は、外部のコンサルタントなどを活用することもあります。
ファシリティマネジャーは、正式な調達手続きを単独で行うのではなく、要求条件が正しく伝わるように情報を整理し、関係部門の手続きを支援します。
📚 要求条件のポイントまとめ
- 要求条件は、多様な要望をプロジェクトの判断基準へ変えたもの
- 要望は多数決や声の大きさだけで採否を決めない
- 緊急性、必要性、予算、期間、技術、法令などを確認する
- 少数の人から出された要求でも、内容によっては重要になる
- 絶対条件と希望条件を分け、優先順位を明確にする
- 経営者、利用者、関係部門、FM部門の要求を整理する
- 要求条件は、基本計画、提案の選定、変更管理、検収、完了時評価に使う
- 外部へ提示するときは、必要な情報を与条件へ整理する
🌤️ 今日のまとめ
要求条件を作ることは、集まった要望の勝ち負けを決めることではありません。
それぞれの要望の背景を確かめ、プロジェクトの目的や現実の条件と結びつけながら、守るべき基準へ整える仕事です。
要求条件が明確になれば、提案を比較するときも、途中の変更を判断するときも、完成した成果を確認するときも、同じものさしを使えます。
🐥:いろいろな人の言葉を、みんなで使える基準へ翻訳するんだね。
🐶:はい。希望を消すのではなく、何を大切にするのかが分かる形へ整えます。
😸:全部を「絶対」にしない勇気も必要ニャ。オレの希望は、ひとまず希望欄に置いておくニャ。
🐔:要求条件は、未来を狭くする柵ではない。大切なものを守りながら、実現できる道を選ぶための道しるべなのじゃ。
🎁 おまけ劇場「ぴよカフェの要求条件会議」
~みんなの希望を、ひとつの食卓へ~🐥ぴよまる:今度、ぴよカフェで食事会を開くことになったよ。みんなの希望を聞けば、すぐにメニューを決められるかな?
😸うちのねこさん:オレはデザートを三種類希望するニャ。これは重要案件ニャ。
🐶うらのいぬさん:わたしは、参加する人に食物アレルギーがないか、最初に確認したいです。
🐔にわのとりさん:では、まず食事会の目的から考えてみようかの。
🐥:みんなで一年の活動を振り返って、次の計画を話し合うためだよ。
🐔:それが目的じゃ。次に、いつ、何人へ、どのような食事を用意するかを目標として具体化するのじゃ。
🐥:お昼の12時までに、10人分の食事を用意する、という感じかな。
🐶:そして、みんなから希望を聞きます。辛くしないでほしい、野菜を多くしてほしい、デザートがあるとうれしい……いろいろ出てきそうです。
😸:デザートがあるとうれしい、ではなく、必要と書いておいてほしいニャ。
🐔:そこで、絶対条件と希望条件を分けるのじゃよ。
🐥:食物アレルギーへの対応は、必ず守る絶対条件だね。
🐶:デザートは、予算や準備時間を見ながら考えられる希望条件です。
😸:異議を申し立てたいところだが、分類の意味は理解したニャ。
🐥:ほかにも、予算、使える調理器具、準備できる時間を確認しなくちゃ。
🐔:うむ。それぞれの希望を、目的、必要性、予算、時間、安全性などと照らし合わせて、実行できる条件へ整える。それが要求条件を作るということなのじゃ。
🐥:みんなの希望を消すんじゃなくて、大切なものが分かるレシピに変えるんだね。
😸:では、デザート一種類で交渉成立ニャ。オレも現実を見ることはあるニャ。
🐶:要求条件が決まれば、誰が料理を担当しても、大切な約束を守れますね。
🐔:そのとおり。よい食卓は、何でも並べることからではなく、何を大切にするかを決めるところから始まるのじゃよ。
🎮 次回予告
次回は、第7章⑤「プロジェクトの予算管理とは?概算から完了後まで数字で支える」です。 要求条件が見えても、使える予算や費用への影響を考えなければ、実行できる計画にはなりません。 概算予算と実施予算の違い、プロジェクトの費用区分、VEによる価値の見直しなど、数字でプロジェクトを支える方法を学びます。
🔗 関連記事
📖 参考資料・関連情報
- 『公式ガイド ファシリティマネジメント』第7章「プロジェクト管理」
- 7.3「プロジェクト管理の業務と体制」
- 7.3.2「プロジェクトの計画における業務」(136~138ページ)
- 7.3.2 c「要求条件の作成」
この記事では、公式ガイドに示された要求条件の考え方、作成時の判断ポイント、経営者・利用者・関係部門・FM部門の要求、与条件の作成について、初心者向けに整理しました。 要求条件をもとにした具体的な提案の評価、サービス提供者の選定、発注、変更管理、検収については、第7章⑥以降でも詳しく扱います。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。