中長期実行計画とは?FM戦略を実行へつなぐ未来の工程表|第6章⑥

楽しく学ぶ!ファシリティマネジメント講座 ファシリティマネジメント講座
ファシリティマネジメントを楽しく学ぼう

 

中長期実行計画は、FM戦略で決めた方向を、実際に動かせる計画へ変えるものです。

どの施設を使い続けるのか、どこを改善するのか、いつ建て替えるのか。

そして、そのためにどれくらいの費用が必要なのか。建物と組織の未来を、時間軸に沿って具体的に描いていきます。

今回は、FM戦略と日々の実行をつなぐ「中長期実行計画」の意味と役割を見ていきましょう。

🗺️ 中長期実行計画は何を決めるもの?

🐥ぴよまる:FM戦略で未来の方向を決めたら、もう計画は完成なの?

🐔にわのとりさん:まだなのじゃ。方向が決まっても、「いつ、どの施設で、何をするのか」が決まっていなければ、実際には動き出せないのじゃよ。

😸うちのねこさん:目的地は決めたけど、出発日も交通手段も決まっていない旅みたいなものニャ。

🐥:それじゃあ、ずっと玄関にいることになっちゃうね。

🐶うらのいぬさん:そこで、最初のクイズです。

中長期実行計画の役割として、最も適切なものはどれでしょう?

  • A.建物や設備の故障を、その場で修理する
  • B.FM戦略を、一定期間の具体的な計画や予算へ落とし込む
  • C.すべての施設を同じ時期に建て替える

😸:オレはAかな。壊れたら、そのとき考えればいいのニャ。

🐥:でも、それだと急に大きなお金が必要になりそう……。ぼくはBだと思う!

🐶:正解は、Bの「FM戦略を、一定期間の具体的な計画や予算へ落とし込む」です。

中長期実行計画は、故障へ個別に対応するためだけの計画ではありません。また、すべての施設を一律に建て替えるものでもありません。

FM戦略で示された方向をもとに、施設の継続使用、移転、増床、建て替え、処分、改善などを検討し、実行できる形へ具体化します。

🏗️ 中長期実行計画とは?

中長期実行計画とは、コアビジネスの経営計画やFM戦略・計画を具体化するために作成する、ファシリティに関する中長期の実行計画です。

FM戦略では、経営の方向に合わせて、これからファシリティをどのように活用するかという基本方針を決めます。

一方、中長期実行計画では、その方針をもとに、次のような内容を具体的に考えます。

  • どの施設を使い続けるのか
  • どの施設を移転・統合するのか
  • どこを増床・改修するのか
  • どの施設を建て替えるのか
  • どの施設を売却・返却・処分するのか
  • それぞれを、いつ実施するのか
  • どれくらいの費用が必要になるのか

つまり、FM戦略が「進みたい方向」を示すものなら、中長期実行計画はそこへ向かう時期、順番、対象、費用を描いた工程表です。

🐥:FM戦略が未来の地図で、中長期実行計画が旅の日程表みたいなものなんだね。

🐔:そのとおりじゃ。地図だけでも、日程表だけでも旅は進めにくい。二つをつなぐことが大切なのじゃよ。

🔗 経営計画とFM戦略を実行へつなぐ

企業や組織では、経営ビジョンをもとに経営戦略が作られ、その内容が3年から5年程度の中期経営計画や、各年度の計画へ具体化されていきます。

FMも、この経営の流れから離れて計画を立てるわけではありません。

たとえば、経営計画に次のような方針があったとします。

  • 新しい事業を始める
  • 複数の拠点を統合する
  • 働き方を見直す
  • 災害への備えを強化する
  • 経費や投資額を適正化する

こうした方針は、施設の面積、配置、機能、設備、予算などにも影響します。

FM部門は、経営部門、財務部門、人事部門、ICT部門、利用部門などと連携しながら、経営上の要求をファシリティに関する計画へ置き換えます。

さらに、施設ごとの状態や必要な面積、実施時期、費用、期待できる効果、実施しなかった場合のリスクなどを整理し、複数の選択肢を比較できる形で経営者へ示します。

どの計画を採用し、どの順番で実施するかを最終的に判断するのは経営者です。FM部門は、その判断に必要な材料を整え、経営者の意思決定を支援する役割を担います。

中長期実行計画には、経営の言葉と建物の言葉をつなぐ翻訳機であると同時に、未来の選択肢を比較するための判断材料としての役割があるのです。

🐶:FM部門が、建て替えや移転を単独で決めるわけではありません。必要性、費用、効果、リスクを整理し、経営者が判断できる形にすることが大切です。

😸:経営者に「いい感じに直しておきました」と言っても、予算は通らないニャ。

🐔:なぜ必要なのか、いつ実施するのか、どのような効果があり、実施しなければどのような影響があるのか。そこまで見えるようにするのじゃ。

📋 中長期実行計画を構成する3つの計画

公式ガイドでは、中長期実行計画を構成する主な内容として、次の3つが示されています。

計画 中心となる内容 初心者向けに言い換えると
供給計画 施設の継続使用、移転、増床、建て替え、処分など どの施設やスペースを、どれだけ用意するか
品質計画 施設やFM業務の品質を改善するための活動 施設やサービスを、どのようによくするか
財務計画 施設投資予算とファシリティコスト予算 実行に必要なお金を、いつ、どれだけ用意するか

3つの計画は互いにつながっている

供給計画、品質計画、財務計画は、別々に完成させて最後に並べるものではありません。一つの計画を変えると、ほかの計画にも影響します。

計画のつながり 影響の例
供給計画
↓
品質計画
施設を統合したり面積を縮小したりすると、働きやすさ、安全性、サービス水準などにも影響する
品質計画
↓
財務計画
安全性や快適性を高めようとすると、改修費や運営維持費が必要になる
財務計画
↓
供給計画
使える予算や投資時期によって、建て替え、移転、改修などの実施時期や方法が変わる
供給・品質・財務の各計画は、互いに影響しながら中長期実行計画を形づくります。

たとえば、老朽化した施設を建て替える場合、必要な面積を考えるだけでは計画は完成しません。

  • 供給計画で、必要な施設や面積を考える
  • 品質計画で、安全性や快適性などの水準を考える
  • 財務計画で、建設費や将来の運営費を考える

そして、費用が想定を超えれば、規模、品質、実施時期などを再検討します。三つの計画を行き来しながら調整することで、実行可能な中長期実行計画へ近づけていきます。

🐥:三つの箱を別々に作るんじゃなくて、相談しながら一つの計画を作るんだね。

🐔:そうなのじゃ。どれか一つだけを最適にしても、全体として実行できなければ計画にはならんのじゃよ。

この3つは、別々に考えるものではありません。

たとえば、老朽化した施設を建て替える場合には、新しい施設をどのくらいの規模にするかという供給計画、安全性や快適性をどこまで高めるかという品質計画、建設費や将来の運営費をどう見込むかという財務計画が関係します。

三つをつなげて考えることで、実行可能な中長期実行計画になります。

供給計画は「何を、どれだけ用意するか」

供給計画は、現在の施設と新たに必要となる施設について、主にスペースの拡大や縮小を検討し、全体として必要な面積を計画するものです。

ここでいう「供給」は、商品を仕入れるという意味ではありません。

組織の活動に必要な建物やスペースを、どこに、どれだけ用意するかという意味です。

供給計画では、施設を使い続けるのか、移転するのか、増床するのか、建て替えるのか、処分するのかといった方針を整理します。

品質計画は「施設や業務をどう改善するか」

すべてのFM施策が、建て替えや増床を伴うわけではありません。

現在の施設を使い続けながら、ワークプレイス環境、運営維持、サービス、FM業務の進め方などを改善する場合もあります。

品質計画では、第9章で行う品質・財務・供給の評価結果や、FMの標準業務サイクルで確認された改善方針などをもとに、必要な改善活動を整理します。

たとえば、既存オフィスの使い方を見直したり、運営維持業務の進め方を改善したりする計画が考えられます。

財務計画は「必要なお金を具体化する」

供給計画や品質計画を実行するには、予算が必要です。

財務計画では、大きく次の二つを扱います。

  • 施設投資予算:施設の取得、建設、改修、設備更新などに必要な予算
  • ファシリティコスト予算:既存施設の運営維持や改善活動などに必要な予算

正式な予算編成や会計処理は、財務・経理部門が担います。

FM部門は、施設の状態、工事の必要性、実施時期、費用の見込みなどを整理し、財務部門や経営者が判断できる情報を提供します。

🐶:FM部門は、予算を単独で決定する部署ではありません。現場の状況と将来の計画を、財務上の判断につなげる役割を担います。

⏳ FM戦略と中長期実行計画の違い

FM戦略と中長期実行計画は、よく似ているように見えますが、役割が異なります。

比べる項目 FM戦略 中長期実行計画
主な役割 ファシリティの基本方針と施策を示す 方針を一定期間の具体的な計画へ落とし込む
中心となる内容 目標、課題、施策、将来の方向 対象施設、実施時期、数量、費用、優先順位
時間の捉え方 長期的な方向を示す 一定の計画期間を設定する
表現の特徴 基本方針などの定性的な内容を含む 予算化できる定量的な情報が中心になる

たとえば、FM戦略で「分散しているオフィスを統合する」という方向が示されたとします。

中長期実行計画では、対象となる拠点、統合の時期、必要な面積、取得や改修の方法、移転費用などを具体的に検討します。

「どこへ向かうか」を示すのがFM戦略であり、「いつ、何を、どれくらい実行するか」を示すのが中長期実行計画です。

📅 年度計画と日々の実行へつなげる

中長期実行計画は、作って棚へしまう未来予想図ではありません。

計画初年度の内容を取り出し、年度計画へ落とし込み、さらに月次計画や四半期計画などへ分けることで、具体的なプロジェクト管理や運営維持の実施計画につながります。

中長期の視点を持たずに年度予算だけを考えると、必要な投資が突然現れたように見えてしまいます。

反対に、中長期実行計画があれば、将来必要になる工事や設備更新を早めに見通し、年度ごとの予算や業務量を調整しやすくなります。

第5章④で学んだように、年度予算は中長期実行計画をその年度に実行できる形へ具体化したものです。

「予算は未来への手紙」なら、中長期実行計画は、その手紙をいつ、どこへ届けるのかを示す予定表ともいえるでしょう。

🐥:遠い未来の話が、今年やることまでつながってきたね。

🐔:うむ。未来を思い描くだけで終わらせず、今日の行動へ橋を架ける。それが中長期実行計画なのじゃ。

計画は中長期と年度の二つの時間軸で管理する

公式ガイドの6.3.2では、中長期実行計画の業務を、中長期計画管理と単年度計画管理に分けて整理しています。

中長期計画管理では、FM戦略から導かれた施策や方針をもとに、供給計画、品質計画、財務計画を立てます。

単年度計画管理では、中長期実行計画からその年度に実施する内容を取り出し、月次計画、四半期計画、年次報告などへつなげます。

流れを簡単に表すと、次のようになります。

経営戦略
↓
FM戦略
↓
中長期実行計画
供給計画・品質計画・財務計画
↓
単年度計画
月次計画・四半期計画・年次報告
↓
プロジェクト管理・運営維持
FM戦略を中長期実行計画へ落とし込み、年度ごとの実行へつなげます。

ただし、ここでは業務プロセスの全体像だけを押さえます。供給計画、品質計画、財務計画をどのように作り、年度計画へ展開するのかは、次回の第6章⑦で詳しく見ていきます。

🧭 統括マネジメントが計画全体をつなぐ

中長期実行計画には、供給計画、品質計画、財務計画だけでなく、複数の部門、施設、プロジェクトが関係します。

そこで土台になるのが、第5章で学んだ統括マネジメントです。

統括マネジメントは、経営者の方針、利用部門の要求、施設の状態、予算、データ、標準や規程などをつなぎ、FM全体が同じ方向へ進めるようにする仕組みです。

中長期実行計画を立てるときにも、次のような調整が必要になります。

  • 経営計画やFM戦略との整合を確認する
  • 関係部門から要求や条件を集める
  • 施設やプロジェクトの優先順位を調整する
  • 供給・品質・財務の各計画を関連づける
  • 経営者の承認に必要な情報を整える
  • 計画の進捗を確認し、必要に応じて見直す

統括マネジメントが計画全体を横につなぎ、中長期実行計画が未来から年度ごとの実行へ縦につなぐ、と考えると分かりやすいでしょう。

🐥:第5章で作った司令塔の仕組みが、ここでも働いているんだね。

🐔:うむ。中長期実行計画は、一つの部門だけで作って終わるものではない。組織全体をつなぐ土台があってこそ、実行へ進めるのじゃ。

🐶:なお、これは公式ガイド第6章の「6.4」という節ではありません。第5章で学んだ統括マネジメントと、中長期実行計画の関係を整理した補足です。

⚠️ 中長期実行計画は「工事の一覧」ではない

中長期実行計画というと、建て替えや改修工事の予定表を思い浮かべるかもしれません。

しかし、工事を並べるだけでは十分ではありません。

施設を増やさず、現在の施設を使い続けながら、運営維持の方法やワークプレイス環境、サービスの内容を改善する計画も含まれます。

また、個々の施設だけを見るのではなく、組織が保有・使用する施設全体を見渡す必要があります。

一つの施設にとってよい計画でも、組織全体で見ると、費用や人員が同じ時期に集中して実行できないことがあるからです。

中長期実行計画は、建物の予定表であると同時に、経営資源の配分を考える計画でもあります。

😸:やりたい工事を全部同じ年に詰め込んだら、予算も担当者も目を回すニャ。

🐶:だから、全体を見ながら実施時期や優先順位を調整する必要があるのです。

📚 ポイントまとめ

  • 中長期実行計画は、経営計画とFM戦略を具体的な実行へつなぐ計画
  • 施設の継続使用、移転、増床、建て替え、処分、改善などを時間軸に沿って整理する
  • 供給計画、品質計画、財務計画を関連づけて考える
  • FM戦略の方向を、対象、時期、数量、費用などの定量的な情報へ落とし込む
  • 年度計画、プロジェクト管理、運営維持の実施計画へつなげる
  • 建設・改修工事だけでなく、既存施設を使いながら行う改善活動も含まれる

🌱 今日のまとめ

中長期実行計画は、FM戦略で描いた未来を、実行できる形へ変えるための計画です。

経営の方向を受け取り、施設の供給、品質、費用をつなぎながら、「いつ、どこで、何をするのか」を具体化します。

未来の建物は、ある日突然完成するわけではありません。 遠くに見える目標から逆算して、一年ずつ、プロジェクト一つずつ、必要な道をつないでいく。

その道筋を見えるようにすることが、中長期実行計画の役割です。

🐥:未来って、ずっと遠くにあると思っていたけど、今日の計画から始まっているんだね。

🐔:そうじゃ。よい未来は、よい計画の中で、少しずつ輪郭を持ちはじめるのじゃよ。


🎁 おまけ劇場「ぴよカフェ、未来の改装計画」 ~やりたいことは、一年に一つずつ~

🐥ぴよまる:ぴよカフェの未来計画を作ったよ!

🐶うらのいぬさん:どんな計画になったの?

🐥:来年は客席を2倍にして、その次の年は厨房を新しくして、さらに屋上へ空中庭園を作るんだ!

😸うちのねこさん:空中庭園には、昼寝用のハンモックも必要ニャ。

🐔にわのとりさん:夢が広がるのはよいことじゃ。では、費用と工事の順番は考えてあるかの?

🐥:……全部、来年にやっちゃダメ?

🐶:客席を増やすなら、厨房の能力が足りるかも確認しないといけないね。工事中の営業をどうするかも考えなくちゃ。

😸:ハンモックの安全点検も外せないニャ。

🐥:そっか。やりたいことを並べるだけじゃ、計画にならないんだ。

🐔:うむ。必要なものをつなぎ、順番を決め、使えるお金と時間を確かめる。それで初めて、未来へ進める計画になるのじゃよ。

🐥:じゃあ、最初は厨房を調べて、次に客席を考えるよ。空中庭園は、そのあとの夢として大切に取っておく!

😸:ハンモック用の予算枠も、そっと残しておくのニャ。

🎮 次回予告

第6章⑦「中長期実行計画のつくり方」へ

中長期実行計画の役割が分かったら、次は、その計画をどのような順番で作り、年度計画や実行へつなげるのかを見ていきます。

供給計画、品質計画、財務計画は、どのように整理されるのでしょうか。

次回は、未来の工程表を実際に組み立てていきましょう。

🔗 関連記事

📖 参考資料・関連情報

    • 『公式ガイド ファシリティマネジメント』第6章「FM戦略・計画」
    • 6.3「中長期実行計画」
    • 6.3.1「中長期実行計画とは」
    • 6.3.2「中長期実行計画の業務プロセス」
    • 該当ページ:122~126ページ
    • 図表6.3.1「FM戦略と中長期実行計画」
    • 図表6.3.2「中長期実行計画の業務プロセス」

    この記事は、公式ガイドの6.3および6.3.1を中心に、中長期実行計画の目的、経営計画・FM戦略との関係、供給計画・品質計画・財務計画の位置づけを、初めて学ぶ人向けに整理したものです。

    6.3.2については、中長期実行計画から単年度計画、プロジェクト管理、運営維持へつながる全体像のみを紹介しています。具体的な業務プロセスは、第6章⑦で詳しく扱います。

    また、統括マネジメントとの関係は、第5章で学んだ内容をもとに、この計画を組織全体で機能させるための補足として整理しています。

タイトルとURLをコピーしました