プロジェクトの予算管理とは?概算から完了後まで数字で支える|第7章⑤

ファシリティマネジメントをやさしく学ぶFM入門講座 ファシリティマネジメント講座
ファシリティマネジメントを楽しく学ぼう

予算管理は、プロジェクトに必要な費用を計算するだけの仕事ではありません。計画の各段階で必要な財務情報を整え、経営者の意思決定を支えながら、実施中の費用と完了後の処理まで見届ける仕事です。

前回は、経営者や利用者などの要望を整理し、プロジェクトで守るべき要求条件へ変える方法を学びました。

要求条件が明確になっても、それを実現するために、どのくらいの費用が必要なのかを確認しなければ、実行できる計画にはなりません。

ただし、予算は最初に一度決めて終わる数字ではありません。

計画が具体的になるにつれて精度を高め、実施中は予算と実績を比較し、変更があれば影響を確認します。プロジェクトが終わったあとには、最終的な収支や資産情報を関係部門へ引き継ぎます。

今回は、プロジェクトを最初から最後まで数字で支える、予算管理について学びましょう。

🐥ぴよまる:予算って聞くと、できることを減らす話みたいで、ちょっと身構えちゃうなあ。

🐔にわのとりさん:予算は、夢を小さくするための数字ではないぞ。限られた資源を、必要な価値へ結びつけるための数字なのじゃ。

🧭 クイズ:予算管理はいつ行う?

プロジェクトの予算管理について、最も適切な説明はどれでしょうか。

  • A.プロジェクトを始める前に、概算予算を一度作れば終わり
  • B.計画、実施、完了後まで、必要な精度で予算と実績を管理する
  • C.予算が足りなくなったら、その都度どこかから探してくる

🐥:予算は途中で変わることもあるから、Bかな。

😸:Cには、どこかに秘密の財布があるという希望が込められているニャ。

🐶うらのいぬさん:正解はBです。

予算管理は、基本計画段階の概算予算から始まり、実施予算、実施中の予算と実績の管理、完了時の収支確認まで続きます。

Aのように概算予算だけで実施すると、計画が具体化したときに大きな差が生じるおそれがあります。Cの秘密の財布は、通常の予算管理には登場しません。

💰 予算管理は経営判断を数字で支える

ファシリティマネジャーは、プロジェクトの段階に応じて、意思決定に必要な財務情報を整えます。

計画の初期段階で、すべての費用を細かく算出することは困難です。そこで、最初はプロジェクトを実施するかどうか判断できる程度の概算予算を示します。

計画が具体化したら、見積りや実施内容をもとに精度を高め、実施予算を作ります。

段階 予算管理の役割
基本方針・基本計画 プロジェクトの規模や方向を判断するため、概算予算を示す
実施計画 具体的な内容や見積りをもとに、実施予算を作る
プロジェクト実施中 予算と実績を比較し、変更や予算超過の影響を管理する
プロジェクト完了後 最終的な収支、支払い、資産情報などを整理する

経営者は、予算の金額だけを見て判断するのではありません。

その費用によって、どのような効果が得られるのか、ほかの施策との優先順位はどうか、どのようなリスクがあるのかを確認します。

ファシリティマネジャーには、プロジェクトの各段階で、判断に必要な精度の情報を、適切な時期に示す役割があります。

🐥:最初から一円単位まで当てることが大切なんじゃないんだね。

🐶:はい。その段階で何を判断するのかに合わせて、必要な精度の数字を用意します。

📘 概算予算と実施予算の違い

プロジェクトの計画では、主に概算予算と実施予算を使います。

予算 役割 作成時の情報
概算予算 プロジェクトの方向や実施の可否を判断する 過去の実績、規模、内容、物価変動、概算見積りなど
実施予算 発注や契約、実施中の管理に使う 具体化した計画、項目別の見積り、実施条件など

概算予算は意思決定のための数字

概算予算は、基本計画の段階で作る大まかな予算です。

過去に行った同じようなプロジェクトの費用を参考にし、規模、内容、物価変動などの違いを調整して作ります。

参考となる実績がない場合は、コンサルタントや施工会社などへ、概算見積りの作成を依頼することがあります。

ただし、発注先が決まっていない段階で見積りを依頼するときは、その後の選定へ不公平な影響を与えないよう、依頼方法や情報の扱いに配慮します。

概算予算には、実施段階で起こり得る変動も見込んでおきます。

想定を超える変更が必要になった場合、どのように対応し、誰の承認を得るのかも考えておくことが大切です。

実施予算は具体的な管理に使う数字

実施予算は、基本計画が承認され、プロジェクトの内容が具体化した段階で作ります。

項目ごとの費用を整理し、発注、契約、支払い、実績管理などに使える形へまとめます。

実施予算は、概算予算より精度の高い予算ですが、「一度決めたら絶対に変わらない完成図」ではありません。

プロジェクトの途中で要求条件や実施方法が変われば、費用への影響を確認し、必要な手続きを経て予算を見直す場合があります。

😸:概算予算は鉛筆の下書き、実施予算は線を整えた図面みたいなものニャ。でも、状況によって修正はあるニャ。

🐔:うむ。大切なのは、数字が変わった理由と影響を説明できることなのじゃ。

🧾 実施予算は財務への影響で整理する

実施予算は、見積書の項目を並べるだけでは十分ではありません。

その支出が企業の財務へどのような影響を与えるのかを整理します。

公式ガイドでは、プロジェクトの予算を、主に次の3つの区分から説明しています。

  1. 資本的支出の予算
  2. 経費(販売費及び一般管理費)の予算
  3. 固定資産の売却・廃棄などに伴う損益の予算

正式な会計区分や処理方法は、会計基準、企業の方針、取引内容などによって異なります。

ファシリティマネジャーが単独で会計処理を決定するのではなく、必要な現場情報を整え、財務部門へ確認しながら進めます。

1.資本的支出の予算

建物、設備、家具・什器、ソフトウェアなど、貸借対照表に固定資産として計上される支出に関する予算です。

資産の取得金額だけでなく、不動産の取得に伴う諸経費、調査費、設計費、工事に付随する費用など、取得のために必要となる費用を含めて検討する場合があります。

賃貸借契約に伴う敷金などは、建物や設備とは異なる資産として扱われる場合があります。

固定資産のうち、減価償却の対象となるものは、利用開始後に減価償却費が発生します。そのため、取得時の費用だけでなく、将来の費用への影響も確認します。

ただし、どの費用を取得価額へ含めるか、修繕費と資本的支出のどちらに該当するかなどは、正式な会計判断が必要です。

2.経費の予算

その年度の費用として、損益計算書へ計上されるプロジェクト費用です。

公式ガイドでは、次のような例が挙げられています。

  • 賃借料
  • ソフトウェア費
  • 消耗品費
  • 引越費
  • 家具・什器費
  • 水道光熱費
  • 業務委託費
  • 減価償却費

同じように見える支出でも、内容や金額、企業の会計方針によって扱いが異なる場合があります。

3.固定資産の売却・廃棄などに伴う損益の予算

プロジェクトに伴って、古い設備や建物などの固定資産を売却・廃棄する場合があります。

その際は、次のような内容を予算へ反映します。

  • 廃棄する資産の帳簿上の残存価額
  • 解体や撤去、処分にかかる費用
  • 固定資産の売却額
  • 売却額と帳簿価額との差額

金額や内容によって、営業外損益や特別利益・特別損失などとして扱われる場合があります。

現在の帳簿価額や正式な会計処理は、財務部門へ確認します。

🐥:予算って、買うお金だけじゃないんだね。

🐶:はい。新しい資産を取得する費用だけでなく、古い資産を処分する費用や、将来発生する減価償却費なども確認します。

⚖️ 予算を作るときは価値も評価する

プロジェクトの予算は、金額を積み上げるだけでなく、その費用を使う意味や効果と一緒に評価します。

施設投資の評価方法は、プロジェクトの目的、予算規模、投資回収までの期間などによって異なります。

収益性を重視するプロジェクトもあれば、安全性、法令対応、事業継続、働きやすさなど、金額だけでは表しにくい効果を重視するプロジェクトもあります。

第7章では、予算と仕様、品質、スケジュールなどのバランスを確認し、経営判断に必要な情報を整えることを中心に扱います。

施設投資評価の詳しい方法は、第9章で改めて学びます。

✨ VEは価値を守りながら代替案を考える

予算を評価するときに使われる方法の一つが、VE(バリューエンジニアリング)です。

VEは、単純に費用を削る方法ではありません。

必要な機能と、それにかかるコストの関係を見直し、価値を高める方法です。

価値 = 必要な機能 ÷ コスト

価値を高める方法には、次のようなものがあります。

  • 必要な機能を保ちながら、より少ないコストで実現する
  • 同じコストで、よりよい機能や効果を実現する
  • 少し費用を増やしても、それ以上に必要な効果を高める
  • 優先度の低い機能を見直し、重要な機能へ資源を振り向ける

安全性、法令対応、プロジェクトの目的を実現するために欠かせない機能などは、単なる費用削減の対象にはできません。

複数の代替案を比較し、何を守り、何を変更するのかを考えます。

🐥:安くすることだけがVEじゃないんだね。

🐔:うむ。必要な価値を見失わず、機能とコストの組み合わせを磨くのがVEなのじゃ。

📊 実施中の予算管理

プロジェクトが始まったら、項目ごとに見積りを確認し、組織で定められた承認手続きを経て発注します。

実施中は、予算と実績を比較し、費用が予定どおり使われているかを管理します。

予算を超える可能性が出た場合は、原因と影響を確認します。

  • 要求条件が変わったのか
  • 数量や単価が変わったのか
  • 実施方法の変更が必要になったのか
  • 別の項目で調整できるのか
  • 追加の承認が必要か

複数の部門から追加要望が出た場合は、声の大きさや発言力だけで決めず、プロジェクトとして対応すべき内容かを公平に評価します。

ファシリティマネジャーは、予算、品質、納期などへの影響を整理し、経営者や関係部門の判断を支援します。

😸:追加要望を全部受け入れると、予算が伸び続けるニャ。

🐶:だからこそ、要求条件へ戻り、必要性と優先順位を確認します。

📦 プロジェクト完了後の予算管理

工事や購入品などの検収が終わったら、請求書にもとづいて支払い手続きを進めます。

不具合が見つかり、検収や支払いの時期を変更する場合は、契約内容にもとづいて適切に対応します。

正式な支払い処理は、財務部門や購買部門などが行います。FM部門は、検収結果、契約内容、費用など、処理に必要な情報を整理して関係部門へ提供します。

固定資産となるものは、財務部門が固定資産台帳へ登録できるよう、取得した資産の情報を共有します。

さらに、鍵、図面、取扱説明書、予備品、保証書などを整理し、日常の運営維持を担う部門へ引き継ぎます。

予算管理は、支払いが終わったら消える数字ではありません。

プロジェクトで取得した資産を、誰が、どのように管理していくのかまでつなぐ必要があります。

📚 予算管理のポイントまとめ

  • 予算管理は、計画・実施・完了後まで続く
  • 概算予算は方向や実施の可否を判断するために使う
  • 実施予算は、具体的な発注・契約・実績管理に使う
  • 支出は、資本的支出、経費、資産の売却・廃棄などが財務へ与える影響を考えて整理する
  • 正式な会計処理は、財務部門と確認しながら進める
  • VEは単なるコスト削減ではなく、必要な機能とコストの関係を見直す方法
  • 実施中は、予算と実績を比較し、変更や追加要望の影響を確認する
  • 完了後は、支払い、資産情報、運営維持への引継ぎを行う

🌤️ 今日のまとめ

予算管理は、未来を金額へ押し込める仕事ではありません。

実現したい価値と、使える資源を結びつけ、組織が判断できる形にする仕事です。

数字は、計画の規模や実現可能性を教えてくれます。しかし、数字だけでは、その理由や背景までは語ってくれません。

何と比べ、どのような条件で算出され、なぜ変化したのかを読み取ることが大切です。

🐥:予算は、未来に値札を付けることじゃなくて、未来へ進む方法を考えるための数字なんだね。

😸:数字は無口だけど、質問すると意外によくしゃべるニャ。

🐶:そして、数字から分かったことを、経営者や関係部門へ伝わる言葉にすることも必要です。

🐔:数字を減らすことだけが管理ではない。必要な価値を守り、実現できる道を整えるのが予算管理なのじゃ。


🎁 おまけ劇場「ぴよまる、数字と話す」 ~数字は無口だけれど、質問すると景色が見えてくる~

🐥ぴよまる:……。

😸うちのねこさん:さっきから、その表と見つめ合って何をしているニャ?

🐥:この予算表、何か言いたそうなんだけど、全然しゃべってくれないんだ。

🐶うらのいぬさん:数字は、そのままでは理由まで説明してくれません。こちらから質問してみましょう。

🐥:質問?

🐶:たとえば、「前の計画と比べて、どこが増えたの?」「数量が変わったの?」「単価が上がったの?」という質問です。

🐔にわのとりさん:数字は大切な事実を伝えてくれる。じゃが、何と比べ、どのような条件で集めた数字なのかを確かめなければ、意味を取り違えることもあるのじゃ。

🐥:じゃあ、この「工事費が前回より20%増えた」という数字も、すぐに高すぎるとは言えないんだね。

🐶:はい。工事範囲、建物の条件、資材価格、実施時期などが違うかもしれません。

😸:数字はツンデレなのかもしれないニャ。こちらから尋ねないと、事情を話してくれないニャ。

🐥:分かった。数字を見るだけじゃなくて、その後ろにある出来事を探してみるよ。

🐔:それでこそ、数字を判断に使えるようになるのじゃ。

🐥:よし。まずは「どうしてこの金額になったの?」から聞いてみよう。

😸:予算表との対話、ようやく始まったニャ。

🎮 次回予告

次回は、第7章⑥「プロジェクト体制とは?役割分担と情報共有でチームを動かす」です。

どれほどよい計画や予算があっても、一人だけではプロジェクトを動かせません。

責任と権限、トップダウン型とボトムアップ型、チーム編成、外部委託、会議と情報共有について学びます。

🔗 関連記事

📖 参考資料・関連情報

  • 『公式ガイド ファシリティマネジメント』第7章「プロジェクト管理」
  • 7.3「プロジェクト管理の業務と体制」
  • 7.3.2「プロジェクトの計画における業務」(138~139ページ)
  • 7.3.2 d「プロジェクトの予算管理」
  • 第9章 9.3.4「施設投資評価」

この記事では、公式ガイドに示されたプロジェクトの概算予算、実施予算、予算の構成、予算評価、実施管理、完了後の対応を、初心者向けに整理しました。

施設投資評価の詳しい方法は第9章で扱い、第7章では、個別プロジェクトの判断と実施を支える予算管理を中心に説明しています。

タイトルとURLをコピーしました