基本方針は、プロジェクトが何を目指し、どのような条件で進むのかを示す出発点です。そして、その方針を現実に合ったものにするためには、現在の状態を調べる実態把握が欠かせません。
前回は、FMプロジェクトが、計画段階と実施段階を通って進むことを学びました。
計画段階の最初に行うのが、基本方針の作成です。
しかし、「こんな未来にしたい」という思いだけで計画を進めると、現在の施設や利用状況、予算、法令などと合わない計画になることがあります。
そこで、基本方針を整理したあと、対象となるファシリティや、その周囲の状況を詳しく調べます。
今回は、プロジェクトが迷わず出発するために必要な、基本方針と実態把握について見ていきましょう。
🐥ぴよまる:目的地を決めたら、すぐに計画を作ってもいいのかな?
🐔にわのとりさん:目的地だけでなく、今どこにいて、どのような条件があるのかも確かめる必要があるのじゃよ。
🧭 クイズ:基本方針を作ったあとに確かめることは?
プロジェクトの目的や目標を基本方針として整理しました。次に行うこととして、最も適切なのはどれでしょうか。
- A.現在の施設や利用状況、制約条件などを調べる
- B.最初に思いついた案を、そのまま最終案にする
- C.完成後に使うプロジェクトの愛称を決める
🐥:未来を考える前に、今の状態を調べるAかな。
😸:Cも侮れないニャ。名前がかっこいいと、少し立派に見えるニャ。
🐶うらのいぬさん:正解はAです。
基本方針で目指す方向を決めたら、現在のファシリティの状態、使われ方、費用、利用者の評価、プロジェクトを進めるうえでの制約などを調べます。
Bのように、最初の案を確認せず最終案にすると、現状に合わない計画になるおそれがあります。Cは、プロジェクトの成功を左右する基本条件ではありません。
😸:愛称については、議題に上がる日を静かに待つニャ。
🎯 基本方針とはプロジェクトの方向を示すもの
基本方針とは、中長期実行計画にもとづいてプロジェクトを実施するときに、目的や目標、関連する条件、実行の考え方などを整理したものです。
基本方針を明らかにすることで、経営者、関係部門、利用者、サービス提供者などへ、プロジェクトが目指す効果や取り組み方を伝えられます。
基本方針は、単なる合言葉ではありません。
「働きやすい職場にする」「古くなった設備を更新する」といった方向だけでなく、なぜ必要なのか、何を実現するのか、どのような条件を守るのかまで整理します。
🐥:みんなで同じ方向を見るための、最初の目印なんだね。
🐔:うむ。プロジェクトの途中で判断に迷ったとき、何のために始めたのかへ戻るための目印にもなるのじゃ。
🧩 基本方針を構成する5つの項目
公式ガイドでは、基本方針を作るときに確認する内容として、次の5項目を挙げています。
| 項目 | 整理する内容 |
|---|---|
| 主旨 | プロジェクトによって目指す効果や、果たすべき役割 |
| 内容 | 何を行うのか。規模、機能、性能、予算、時期など |
| 根拠 | なぜプロジェクトが必要なのか。方針を選ぶ理由や、効果を測る基準 |
| 条件 | 必ず守る条件や、プロジェクトを制限する条件 |
| 未決事項 | 実施中に検討し、改めて承認を得る必要がある重要事項 |
主旨:どのような効果を目指し、何の役割を果たすのか
主旨では、プロジェクトによって目指す効果と、組織の中で果たすべき役割を示します。
たとえば、働き方の改革を支える、生産性を高める、ファシリティコストを見直す、使われていない空間を有効活用する、といった内容です。
ここでは「なぜ必要なのか」を詳しく説明するのではなく、プロジェクトによって何をもたらしたいのかを示します。
内容:何を、どの規模・機能・性能で行うのか
内容では、プロジェクトで何を行うのかを示します。
対象となる施設や空間の規模、必要な機能、求める性能、予算、実施時期などを整理し、プロジェクトの輪郭を具体化します。
根拠:なぜ必要で、なぜその方針を選ぶのか
根拠では、プロジェクトが必要となった理由や、その方針・内容を選ぶ理由を示します。
現状の問題、経営上の必要性、調査結果などをもとに説明し、プロジェクトの効果をどのような基準で測るのかも整理します。
条件:守るべきことは何か
条件には、必ず満たさなければならない条件や、プロジェクトの進め方を制限する条件があります。
たとえば、法令、予算の上限、完了期限、事業を止められない期間などです。
未決事項:まだ決められないことは何か
計画の初期段階では、すべてを確定できるとは限りません。
調査や設計が進んでから判断すること、実施中に検討して承認を得ることなどは、未決事項として分けて管理します。
😸:決まっていないことを、決まったふりにしないのも大事なんだニャ。
🐶:はい。未決事項が見えるようになっていれば、誰が、いつ、何を判断するのかを準備できます。
📋 基本方針の内容を具体的に整理する
公式ガイドの図表7.3.1では、基本方針の内容を、次の4つに分けて整理しています。
1.プロジェクトの目的
経営戦略との関係や、プロジェクトを行う理由を整理します。
- 事業戦略の中で、どのように位置づけられているか
- 新しい事業や働き方へ、どのようにつながるか
- 財務戦略と、どのような関係があるか
- 実施しなかった場合、どのような問題があるか
プロジェクトの目的が複数ある場合は、重要度や優先順位も示します。
2.プロジェクトの目標
目的を実現するために、何をどこまで達成するのかを具体化します。
- 施設の規模や立地などの条件
- 投資できる予算
- 必要な品質や機能の水準
- 完成・利用開始の時期
目標は、できるだけ数値や期限を使い、達成できたかを確かめられる形にします。
3.プロジェクトの関連要件
プロジェクトだけを見て計画するのではなく、完成後の運営維持や、将来の変化も考えます。
- 運営維持の計画
- 組織や事業の将来計画
- 社内基準やFM標準
- 関係する法令や規則
- 改修や用途変更など、将来のライフサイクル
プロジェクトの完成は、施設を使い始める出発点でもあります。完成後に誰が、どのように管理するのかまで考えておく必要があります。
4.プロジェクト実行計画
プロジェクトをどのような体制や方法で進めるのか、その基本的な考え方を整理します。
- 実施体制と役割分担
- 全体のスケジュール
- 管理方法
- 実行予算の考え方
- 外部へ委託する範囲
この段階では、すべての細部を決めるのではなく、プロジェクトを進めるための大きな枠組みを示します。
📊 実態把握とは現在地を確かめる仕事
実態把握とは、現在のファシリティの状態、利用者の評価、制約条件、社会の変化などを調べ、プロジェクトの出発点を明らかにする仕事です。
新しい計画を立てるとき、現在の建物や設備を調べるだけでは十分ではありません。
施設の使われ方、利用者の声、運営維持の状況、法令、技術や働き方の変化、過去のプロジェクトなど、複数の情報を組み合わせて考えます。
把握した内容は、このあとの要求条件や基本計画へ反映します。
🐥:まず今の建物を健康診断する、という感じかな。
🐔:それも一つじゃ。ただし、建物だけでなく、使う人、周囲の環境、将来の変化まで見るのが実態把握なのじゃよ。
🔍 実態把握で確認する5つの領域
公式ガイドの図表7.3.2では、実態把握の項目を、次の5つに整理しています。
| 領域 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 既存ファシリティの現状 | 施設・設備の状態、運営維持、利用状況、基準への適合、関係者の評価 |
| プロジェクト対象の制約条件 | 敷地、図面、現地の状況、工事条件、費用など |
| 類似事例のベンチマーキング | 似た目的を持つ事例の成功・失敗や、その背景 |
| 社会動向の関連情報 | 地域、環境、ICT、働き方、人口、災害などの変化 |
| プロジェクト関連データ | 過去の実績、費用、必要期間、専門家や公的機関などの情報 |
1.既存ファシリティの現状
建物や設備の仕様、規模、機能、性能、執務環境などを確認します。
さらに、次のような内容も調べます。
- 運営維持にかかっている費用
- 設備の運転、清掃、警備などの状況
- 施設がどのように、どの程度使われているか
- 必要な基準や仕様を満たしているか
- 経営者、利用者、関係部門などが現状をどう評価しているか
2.プロジェクト対象の制約条件
土地や建物には、それぞれ異なる条件があります。
敷地の地盤や周辺環境、既存建物の構造、設備、室内空間、工事可能な時間、費用上の制約などを確認します。
同じ改修内容でも、建物の構造や利用状況によって、実施方法や費用は大きく変わります。
3.類似事例のベンチマーキング
同じような目的や目標を持つ事例を調べ、自分たちのプロジェクトを考える参考にします。
成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例も、原因や背景を考える材料になります。
ただし、条件がまったく同じプロジェクトはありません。他の事例を、そのまま当てはめないことが大切です。
4.社会動向の関連情報
プロジェクトへ影響する社会の変化も確認します。
- 地域や人口の変化
- 地球環境や自然災害への対応
- ICTや設備技術の進歩
- 働き方の変化
- 少子高齢化や人材に関する変化
将来利用する施設を計画するためには、現在の状態だけでなく、これから起こり得る変化にも目を向ける必要があります。
5.プロジェクト関連データ
過去に行った同種のプロジェクトから、費用や必要期間、問題点などを確認します。
必要に応じて、設計事務所、施工会社、不動産コンサルタント、公的機関などから情報を集めることもあります。
ただし、過去の事例をそのまま使うのは危険です。
地盤、建物の規模や構造、設備、資材、人件費、実施時期などの違いによって、費用や期間は大きく変わります。
😸:昔と同じ値段、同じ日数でできるとは限らないニャ。
🐶:はい。数字を使うときは、対象範囲、条件、時期などを確認する必要があります。
🔗 第6章・第9章との関係
実態把握では、これまでに行った評価や調査の結果も活用します。
第9章では、ファシリティの品質・財務・供給について詳しく評価します。
第7章では、その評価結果を個別のプロジェクトへ使い、情報が足りない場合は、対象や目的に合わせて追加で確認します。
また、第6章で学んだベンチマーキングなどの調査・分析手法も、プロジェクトの実態把握に活用できます。
- 第6章:FM施策や計画を考えるために、調査・分析を使う
- 第9章:ファシリティの品質・財務・供給を詳しく評価する
- 第7章:評価結果や調査情報を、個別プロジェクトの計画へ反映する
同じ情報を何度も一から集め直すのではありません。
すでにある評価結果を使いながら、プロジェクトの判断に必要な情報を補うのが基本です。
📚 基本方針と実態把握のポイントまとめ
基本方針は、プロジェクトの目的・目標・条件・進め方などを示す出発点
- 基本方針では、主旨、内容、根拠、条件、未決事項を整理する
- 目的だけでなく、関連要件や実行計画の考え方も確認する
- 実態把握では、施設の状態だけでなく、利用者、制約条件、社会動向、過去のデータなども調べる
- 類似事例は参考にするが、条件の違いを確認して使う
- 調べた結果は、要求条件や基本計画へ反映する
🌤️ 今日のまとめ
基本方針で目指す方向を示し、実態把握で現在地を確かめる。
この二つがそろって、初めて現実に根を下ろしたプロジェクトの計画を作れます。
未来を思い描くことは大切です。しかし、足元の状態や周囲の変化を知らなければ、その未来へ続く道を選べません。
🐥:基本方針が目的地で、実態把握が現在地なんだね。
🐔:うむ。目的地と現在地の両方が分かれば、次に何を整える必要があるのかが見えてくるのじゃ。
😸:地図を逆さまに持たないことも大事ニャ。
🐶:次は、現在地と目的地の間にある差を、具体的な要求条件へ整理していきます。
🎮 次回予告
次回は、第7章④「要求条件とは?みんなの要望をプロジェクトの基準へ変える」です。
経営者、利用者、関係部門などから集まった要望を、どのように一つのプロジェクトへまとめるのでしょうか。
絶対に守る条件と、できれば実現したい条件を分け、計画や発注、検収に使える基準へ変える方法を学びます。
🔗 関連記事
📖 参考資料・関連情報
- 『公式ガイド ファシリティマネジメント』第7章「プロジェクト管理」
- 7.3「プロジェクト管理の業務と体制」
- 7.3.2「プロジェクトの計画における業務」(133~136ページ)
- 7.3.2 a「基本方針の作成」
- 図表7.3.1「基本方針の内容」(135ページ)
- 7.3.2 b「実態の把握」
- 図表7.3.2「実態把握の項目」(135ページ)
この記事では、公式ガイドに示された基本方針の内容と実態把握の項目をもとに、プロジェクトの目的地と現在地を整える流れを、初心者向けに整理しました。
関係者の要望を要求条件へまとめる方法は、次回の第7章④で詳しく扱います。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。