🎯 FM戦略は、経営の目標をファシリティへつなぐ
FM戦略とは、企業や組織の経営目標を実現するために、建物・土地・設備・ワークプレイスなどのファシリティを、これからどのように整え、活かしていくかを決める方針です。
第5章では、FM全体をつなぐ「統括マネジメント」について学びました。
第6章では、その仕組みを使って、組織とファシリティの未来をどのように描くのかを見ていきます。
🐥ぴよまる:FM戦略って、建物の使い方を決めることなの?
🐔にわのとりさん:それも含まれるが、もう少し広いのじゃ。まずはクイズで考えてみようかの。
🐥 ぴよまると考える3択クイズ
会社が「もっと働きやすく、災害にも強い組織にしたい」という経営目標を掲げました。FM戦略として最も適切なのは、どれでしょう?
- A:古くなった設備を、壊れた順に交換する
- B:働き方や災害リスクを調べ、オフィスや設備を将来どのように整えるか方針を決める
- C:建物をできるだけ豪華にして、会社の目立つ場所を増やす
🐥:うーん。壊れたものを直すAも、大事なお仕事だよね。
😸うちのねこさん:オレならCも捨てがたいニャ。立派な専用席ができるかもしれない。
🐶うらのいぬさん:正解はBです。
故障した設備を直すことも必要ですが、それだけでは、経営目標を実現するための戦略とはいえません。
まず現状や将来の変化を調べ、働き方、防災、コスト、設備の状態などを考えながら、ファシリティをどの方向へ整えていくかを決めます。それがFM戦略です。
😸:なるほどニャ。豪華さよりも、目指す未来に合っているかが大切なのか。
🧭 FM戦略とは何を決めるもの?
企業や組織には、「何を目指し、どのような価値を生み出すのか」という経営戦略があります。
しかし、経営戦略を掲げただけでは、働く場所や設備は変わりません。
たとえば、企業が次のような方針を掲げたとします。
- 新しい事業へ進出する
- 働き方を柔軟にする
- 生産性を高める
- 災害に強い組織をつくる
- 環境負荷を減らす
これらを実現するには、組織体制や情報システムだけでなく、拠点、オフィス、設備、サービスなども目的に合うように整える必要があります。
そこでFM部門は、経営戦略をファシリティの視点から読み取り、これからの方向を示します。
これがFM戦略です。
🐥:経営者が「こんな会社にしたい」と考えたことを、建物や職場の未来につなぐんだね。
🐔:そのとおりじゃ。経営の言葉を、ファシリティで実行できる言葉へ翻訳する役割ともいえるのう。
🏢 FM戦略は「機能別戦略」の一つ
経営戦略を実現するためには、さまざまな分野の戦略が必要です。
たとえば、次のようなものがあります。
- 人材に関する戦略
- ICTに関する戦略
- 財務に関する戦略
- ファシリティに関する戦略
FM戦略は、これらと並ぶ機能別戦略の一つです。
人材戦略が「どのような人材や働き方が必要か」を考え、ICT戦略が「どのような情報基盤が必要か」を考えるように、FM戦略は「どのようなファシリティが必要か」を考えます。
ただし、それぞれの戦略は別々に動くものではありません。
テレワークを増やすなら、ICT環境だけでなく、出社したときの席や会議室の使い方も変わります。新しい事業を始めるなら、人材の配置とともに、拠点や設備の準備も必要になります。
FM戦略は、人、ICT、財務などの戦略とつながりながら、経営を支えます。
🔄 FM戦略はPDCAの「Plan」にあたる
FMの標準業務サイクルでは、FM戦略・計画はPlan(計画)に位置づけられます。
ただし、何もないところから突然、戦略を考えるわけではありません。
これまでの業務について、品質・財務・供給の面から評価し、見つかった問題や改善方針を次のFM戦略へ反映します。
そのため、FM戦略は次の二つを受け取ってつくられます。
- 経営戦略から示される、組織の目指す方向
- 評価・改善から分かった、現在のファシリティの状態
経営が目指す未来だけでなく、現在地も確かめる。その両方がそろって、実現可能なFM戦略になります。
🐶:目的地だけを見ても、今いる場所が分からなければ、進む道は決められません。
🐥:FM戦略は、未来の目標と現在地をつなぐ地図なんだね。
🧩 FM戦略ができるまでの流れ
FM戦略は、次のような順序で具体化していきます。
- FM目標を定める
経営目標や評価結果を受けて、品質・財務・供給の面から目指す状態を決めます。 - FM課題を整理する
現在の状態と目標を比べ、解決しなければならない問題を明らかにします。 - FM施策を立てる
課題を解決するために、施設の活用、統廃合、建替え、ワークプレイス改善、設備更新などの方向を決めます。 - 中長期実行計画へ展開する
施策を、時期・予算・優先順位などを含む実行可能な計画へ落とし込みます。
FM戦略は、大きな方向を示すものです。
一方、中長期実行計画は、その方向へ進むために「いつ、何を、どのように実行するか」を具体化するものです。
🏰 カフェづくりで考えるFM戦略
🐥:未来のぴよカフェを開くなら、最初にイスやテーブルを選べばいいのかな?
🐔:その前に、どのような店にしたいのかを考える必要があるのじゃ。
たとえば、経営目標が「地域の人が安心して集まれるカフェをつくる」だったとします。
そこから、次のように考えます。
| 考える段階 | ぴよカフェの例 |
|---|---|
| 経営目標 | 地域の人が安心して集まれる店にする |
| FM目標 | 子どもから高齢者まで利用しやすい空間にする |
| FM課題 | 通路が狭い、段差がある、災害時の避難経路が分かりにくい |
| FM施策 | 通路を広げる、段差をなくす、避難表示を整える |
| 中長期実行計画 | 改修の順番、時期、予算を決める |
「どこに出店するか」「何席にするか」だけを決めるのがFM戦略ではありません。
どのような店を目指すのかを出発点にして、空間や設備をどう整えるかを考えることが大切です。
🐥:イスを選ぶ前に、「誰に、どんな場所を届けたいか」を決めるんだね。
😸:オレの席を窓際に置くかどうかは、そのあとの話ニャ。
🐶:その席が、お店の目的に合っているかも検討対象です。
😸:むむ。戦略は公平ニャ……。
🔭 FM戦略には長い視点が必要
経営計画は、一般に3年から5年ほどの期間でつくられることがあります。
一方、建物や設備は、数十年にわたって使われることがあります。一度建てたり大きく改修したりすると、簡単には元へ戻せません。
そのためFM戦略では、現在の経営計画に対応するだけでなく、その先の変化も見渡す必要があります。
- 働く人の数はどう変わるか
- 事業や組織はどう変化するか
- 建物や設備はいつ更新時期を迎えるか
- 災害や気候変動へどう備えるか
- ファシリティコストを将来も負担できるか
目の前の不便を直すだけでなく、長い時間の中でファシリティをどう育て、変えていくか。それもFM戦略の役割です。
📚 ポイントまとめ
- FM戦略は、経営目標をファシリティの方向へつなぐ機能別戦略
- 対象は建物だけでなく、土地、設備、ワークプレイス、運営サービスなどを含む
- 経営戦略と、これまでの評価・改善結果の両方をもとに考える
- 品質・財務・供給の視点からFM目標を定める
- FM目標、FM課題、FM施策の順に具体化する
- FM施策は、中長期実行計画へ落とし込んで実行につなげる
- 建物や設備は長く使うため、FM戦略には長期的な視点が必要
🌱 今日のまとめ
FM戦略は、建物だけを考える戦略ではありません。
組織が目指す未来を確かめ、今あるファシリティの状態を見つめ、その間をどのようにつないでいくかを考えるものです。
経営者が描いた未来を、働く場所や設備のかたちへ翻訳していく。
FM戦略は、経営とファシリティの間に架ける橋であり、これから進む道を示す地図なのです。
🎮 次回予告
第6章②「FM目標とFM課題」へ
経営が目指す未来を、FMではどのような目標に置き換えるのでしょうか。
次回は、目標を定め、現在地との差から課題を見つける方法を学びます。
🔗 関連記事
- 統括マネジメントとは?FM全体をつなぐ司令塔の役割|第5章①
- FM組織の運営とは?業務をつなぎ学び続ける仕組み|第5章③
- FMの財務管理とは?予算・コスト・施設資産をつなぐ|第5章④
- FMのデータ管理とは?情報を集めて経営判断に活かす|第5章⑤
- FMの標準と規程とは?仕事の品質をそろえる仕組み|第5章⑥
📖 参考資料・関連情報
- 『公式ガイド ファシリティマネジメント』
- 第6章「FM戦略・計画」
- 6.1「FM戦略・計画」
- 6.2「FM戦略」
- 6.2.1「FM戦略の業務」
- 108~111ページ
- 図表6.2.1「FM戦略・計画の位置づけ」
- 図表6.2.2「FM戦略策定業務プロセス」
この記事は、公式ガイドに示されているFM戦略・計画の位置づけとFM戦略の役割を、初めて学ぶ人向けに整理したものです。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。