FM目標とFM課題は、FM戦略を具体的な行動へつなげるための出発点です。FM目標は将来実現したい状態を示し、FM課題は目標と現在の状態の間にある、解決すべき差を表します。
🗺️ FM目標とFM課題はどう違う?
FM目標とFM課題は、FM戦略を具体的な行動へつなげるための大切な要素です。
FM目標は、ファシリティを将来どのような状態にしたいかを示すものです。
一方、FM課題は、その目標を実現するために解決しなければならない問題です。
目的地を示すのがFM目標なら、現在地から目的地までの間にある段差や回り道を見つけるのがFM課題といえるでしょう。
🐥ぴよまる:目標が「行きたい場所」で、課題は「そこへ行くために解決すること」なの?
🐔にわのとりさん:うむ。似た言葉に見えるが、役割は違うのじゃ。まずはクイズで確かめてみようかの。
🐥 ぴよまると考える3択クイズ
会社が「働く人の満足度を高める」というFM目標を立てました。次のうち、FM課題にあたるものはどれでしょう?
- A:会議室が不足し、必要なときに使えない
- B:働く人の満足度を高める
- C:来月から頑張る
🐥:Bは、もう問題文に出てきた目標だよね。ということは……Aかな?
😸うちのねこさん:Cには、ほどよく前向きな気配があるニャ。
🐶うらのいぬさん:正解はAです。
「働く人の満足度を高める」は、目指す状態を表すFM目標です。
それに対して、「会議室が不足している」は、目標の実現を妨げている現在の問題です。そのため、FM課題として整理できます。
「来月から頑張る」は、残念ながら目標にも課題にもなっていません。
😸:気持ちだけでは、会議室は増えないニャ……。
🎯 FM目標は、目指す未来を具体的に示す
FM目標は、経営目標をファシリティの視点へ置き換えたものです。
たとえば、経営目標が「事業を拡大する」だったとします。
そのままでは、FM部門が何をすればよいのか、どこまで達成すればよいのかが分かりません。そこで、ファシリティに関わる具体的な目標へ展開します。
- 新しい拠点の展開を進める
- 必要なスペースを確保する
- 人員増加に対応できる職場を整える
- スペースの利用効率を高める
- 拠点運営にかかるコストを適正化する
さらに重要なのが、目標をできるだけ定量化することです。
定量化とは、「良くする」「減らす」といった方向だけでなく、数値や期限を使って、目指す水準を具体的に示すことです。
たとえば、次の二つを比べてみましょう。
働きやすいオフィスにする。
これだけでは、何をもって達成とするのかが分かりません。
そこで、次のように具体化します。
3年以内に利用者満足度を80%以上にする。
ほかにも、次のような目標が考えられます。
- エネルギー使用量を3年間で10%削減する
- 1人当たりのオフィス面積を適正な水準へ見直す
- 設備故障による業務停止時間を年間○時間以内にする
- 使用頻度の低いスペースを○%削減する
- 更新時期を超えた設備の割合を○年度までに半減させる
目標を定量化すると、現在の状態との差を測りやすくなり、進捗や成果も評価できます。
また、「何を、いつまでに、どの水準まで改善するのか」が明確になるため、必要な予算や人員を経営者へ説明しやすくなります。
ただし、すべてを無理に数字へ置き換える必要はありません。
快適性、安心感、企業イメージなど、数値だけでは十分に表せないものもあります。その場合は、アンケートや段階評価などを使い、できるだけ客観的に変化を確認できる方法を考えます。
🐥:数字があると、ゴールまであとどのくらいか分かるんだね。
🐶:はい。定量化は、数字を飾るためではなく、判断と評価ができる目標にするために行います。
😸:オレの快適度は、常に最高水準ニャ。
🐔:その評価基準は、もう少し客観的にする必要がありそうじゃの。
🔀 FM目標には二つの入口がある
FM目標を設定する流れには、大きく二つあります。
1.経営目標から考える
一つ目は、経営戦略や経営目標を受けてFM目標を定める流れです。
たとえば、経営が「既存の商圏を広げる」という目標を掲げた場合、FMでは次のように展開できます。
- 賃借によって拠点展開を早める
- 拠点の配置を見直す
- スペース効率を高める
- 新しい働き方に対応した職場を整える
経営が目指す未来から逆算して、ファシリティに必要な変化を考える方法です。
2.評価・改善から考える
もう一つは、現在のファシリティを評価し、見つかった問題や改善方針からFM目標を定める流れです。
たとえば、事業の拡大にオフィスが追いつかず、働く人の満足度が下がっていることが分かったとします。
この場合は、次のようなFM目標が考えられます。
- ワークプレイスを改善し、利用者満足度を高める
- スペースの再配置によって、コストを抑える
- フリーアドレスなどを活用し、面積効率を改善する
つまりFM目標は、経営から下りてくるものだけではありません。
現場の評価や改善活動から見つかった問題も、次のFM目標へつながります。
🐥:上から未来を見る道と、今いる場所から未来を見る道があるんだね。
🐔:その二つを合わせることで、経営にも現場にも必要な目標になるのじゃ。
🔺 FM目標を考える三つの視点
FM目標は、主に次の三つの視点から考えます。
| 視点 | 主に確認すること | 目標の例 |
|---|---|---|
| 品質 | 安全性、快適性、機能性、利用者満足度など | 働きやすさや安全性を高める |
| 財務 | ファシリティコスト、施設資産、投資、LCCなど | 維持費を適正化する |
| 供給 | 施設の数、面積、立地、配置、サービスなど | 必要な場所に必要なスペースを確保する |
この三つは、どれか一つだけを良くすればよいものではありません。
たとえば、コストを減らすためにスペースを極端に小さくすると、働きやすさが損なわれるかもしれません。
反対に、品質だけを追い求めて過大な設備投資を行えば、財務面で無理が生じます。
FM目標では、品質・財務・供給のバランスを考えることが大切です。
😸:広くて快適で、費用はほとんどかからず、いつでも使える場所が理想ニャ。
🐶:理想を掲げるだけでなく、条件のバランスを考えるのがFMです。
🧱 FM課題は、目標と現状の間にある差
FM目標を定めたら、次にFM課題を整理します。
FM課題は、単に「困っていること」を並べたものではありません。
目指す状態と現在の状態を比べて、その間にどのような差があるのかを明らかにします。
たとえば、次のように考えます。
| FM目標 | 現在の状態 | FM課題 |
|---|---|---|
| 利用者満足度を高める | 会議室や集中スペースが不足している | ワークプレイスの機能や配置を見直す必要がある |
| 維持費を適正化する | 老朽設備の故障と修理費が増えている | 設備更新の優先順位を決める必要がある |
| 必要なスペースを確保する | 拠点ごとの利用状況に偏りがある | 面積や拠点配置を再検討する必要がある |
このようにFM課題を整理すると、次の段階で「何をすればよいのか」というFM施策を考えやすくなります。
🔺 FM課題も三つの視点で整理する
FM目標を品質・財務・供給の三つの視点で考えたように、FM課題も同じ視点で分類すると、内容を整理しやすくなります。
1.品質に関するFM課題
品質の課題は、安全性、快適性、機能性、利用者満足度などに関するものです。
たとえば、次のような課題があります。
- 建物や設備の老朽化が進んでいる
- 設備の故障によって業務が中断する
- ワークプレイスの機能や配置にばらつきがある
- 利用者満足度が低下している
- 建物の耐震性や安全性が十分に確認されていない
- ICT環境が新しい働き方に対応していない
2.財務に関するFM課題
財務の課題は、ファシリティコスト、施設資産、投資などに関するものです。
たとえば、次のような課題があります。
- 非効率な施設運営によってコストが増えている
- 修繕費や光熱費が上昇している
- 老朽施設への投資時期が集中する
- 市場価格の変動によって資産価値が下がる
- 施設投資の判断基準が明確になっていない
- 所有と賃借のどちらが有利か判断できていない
3.供給に関するFM課題
供給の課題は、必要な施設、面積、立地、サービスなどを適切に用意できているかに関するものです。
たとえば、次のような課題があります。
- 必要な地域に拠点がない
- 施設によって利用率に差がある
- スペースが不足している、または余っている
- 組織再編後の施設配置が業務に合っていない
- 働き方の変化にスペースの供給が追いついていない
- 必要な運営サービスが十分に提供されていない
三つの課題は、それぞれ独立しているとは限りません。
たとえば、老朽設備をそのまま使い続けると、品質が低下するだけでなく、修理費やエネルギー費用が増え、財務上の課題にもなります。故障によって必要なサービスを提供できなくなれば、供給の課題にもつながります。
そのため、一つの問題をどれか一つへ無理に押し込むのではなく、品質・財務・供給のどこに影響が及ぶのかを確認することが大切です。
🔭 FM課題は「現在」と「将来」の両方から探す
FM課題には、すでに表面化している現在の課題と、これから起こる可能性がある将来の課題があります。
現在の課題
現在の課題は、評価や日々の運営を通して、すでに確認されている問題です。
- 設備の故障が増えている
- 会議室や作業スペースが不足している
- 利用者満足度が低下している
- ファシリティコストが高い
- 拠点ごとの利用状況に偏りがある
- 安全性や法令対応に不備がある
現在の課題は、点検記録、コストデータ、利用率、満足度調査などによって把握できます。
将来の課題
将来の課題は、今は大きな問題になっていなくても、経営環境や施設の状態が変化することで、将来表面化すると予想される問題です。
たとえば、次のような変化を考えます。
- 建物や設備の老朽化が進む
- 働く人の数や年齢構成が変わる
- テレワークなどによって働き方が変わる
- 事業の拡大や縮小によって必要な面積が変わる
- エネルギー価格や建設費が上昇する
- 不動産市場や賃料が変動する
- 法令や環境基準が改正される
- 災害や気候変動によるリスクが高まる
- 新しいICTやセキュリティ対策が必要になる
- 企業ブランドや社会から求められる役割が変わる
将来課題を考えるときは、単に「いつか困るかもしれない」と想像するだけでは不十分です。
次の三つを確認すると、課題の輪郭が見えやすくなります。
- 何が変化するのか
人員、事業、技術、法令、市場、気候などを確認する。 - いつごろ影響が現れるのか
設備の更新時期、賃貸借契約の終了時期、事業計画などと照らし合わせる。 - 何もしなければ、どのような影響が出るのか
安全性、コスト、事業継続、利用者満足度などへの影響を考える。
たとえば、空調設備が現在は問題なく動いていても、数年後に複数の設備が一斉に更新時期を迎えると分かっていれば、将来の財務課題として早めに扱う必要があります。
また、働く人が減る見込みなのに現在と同じ面積のオフィスを借り続ければ、将来、余剰スペースとコストの増加が課題になるかもしれません。
このように、将来課題を早めに把握すれば、問題が深刻になる前に、予算、更新時期、拠点配置などを計画できます。
🐥:将来課題って、まだ起きていない問題を当てることなの?
🐔:未来をぴたりと当てることではないのじゃ。変化の兆しを見つけ、起きたときに慌てないよう準備することじゃよ。
🐶:将来の課題には不確実な部分があります。だからこそ、一つの予想に決めつけず、複数の可能性を考えることも大切です。
この考え方は、第6章⑤で学ぶ「シナリオプランニング」にもつながります。
🔍 FM目標を考えるときの12の確認項目
FM目標を定めるときには、経営やファシリティを取り巻く状況を広く確認する必要があります。
公式ガイドでは、ファシリティマネジャーが確認すべき内容を、次の12項目に整理しています。
- コアビジネスの事業戦略、ミッション、ビジョン、企業価値
- 事業の重要目標
- 主力製品・サービスの事業領域、特性、展開地域
- 使用しているファシリティと、その地理的な配置
- 組織の短期・長期の戦略方針と、FMを担う人材・能力
- 組織構造、組織文化、ガバナンス、意思決定の方法
- セキュリティ、レジリエンス、BCMなどのリスクマネジメント
- 環境の持続可能性と社会的責任
- ファシリティの利用者と、その他のステークホルダー
- FM業務の計画・統制に関するルールと情報管理
- 適用される法律の理解とコンプライアンス
- 現在と将来の企業ブランディング
これは、12項目すべてに個別の目標を立てるという意味ではありません。
FM目標が経営の方向から外れていないか、大切な条件を見落としていないかを確認するためのチェック項目です。
12項目を四つのグループで考えよう
12個をそのまま暗記するより、次の四つに分けると全体像をつかみやすくなります。
- 経営を知る
事業戦略、重要目標、製品・サービス - 組織とファシリティを知る
施設の配置、人材、組織構造、意思決定 - 社会とリスクを知る
災害、セキュリティ、環境、社会的責任、関係者 - 守る仕組みを知る
ルール、情報管理、法律、コンプライアンス、企業ブランド
🐥:施設だけを見て目標を決めるわけじゃないんだね。
🐔:うむ。組織が何を目指しているのか、誰が利用するのか、どのようなリスクがあるのか。周りの世界まで見渡してこそ、経営を支えるFM目標になるのじゃ。
🧑💼 FM目標は、経営幹部の意思決定を支える
FM目標を設定する目的は、FM部門だけの行動目標をつくることではありません。
ファシリティに関する情報を経営の言葉へ整理し、経営幹部が判断できるようにすることも、ファシリティマネジャーの重要な役割です。
建物の建替え、拠点の統廃合、大規模改修、賃借への切替えなどは、企業の経営や財務に長く影響します。
そのため、ファシリティマネジャーは、単に「この設備を更新してください」と要望するのではなく、次のような情報を整えて示します。
- 経営目標とどのように関係するのか
- 現在、どのような問題が起きているのか
- 将来、どのようなリスクが予想されるのか
- 品質・財務・供給へどのような影響があるのか
- 何もしなかった場合に、どのような結果になるのか
- 複数の選択肢には、それぞれどのような利点と課題があるのか
- 必要な費用と、期待できる効果はどの程度か
- いつまでに判断する必要があるのか
経営幹部は、これらの情報をもとに、投資の優先順位や実施時期を判断します。
つまり、ファシリティマネジャーがすべてを一人で決めるわけではありません。
現場やデータから得た情報を整理し、経営幹部が適切な意思決定を行えるように支援します。そして、承認された方向をFM施策や中長期実行計画へつないでいきます。
🐥:経営者に「これをしてください」とお願いするだけじゃないんだね。
🐶:はい。選択肢と影響を分かりやすく示し、判断を支えることが大切です。
🐔:ファシリティの現在と未来を、経営者が読める地図にして渡す役目なのじゃ。
🧭 FM目標とFM課題を混同しない
FM目標とFM課題は、文章にすると似て見えることがあります。
迷ったときは、次のように問いかけてみましょう。
- FM目標:どのような状態を実現したいのか
- FM課題:その状態を実現するために、何を解決する必要があるのか
- FM施策:課題を解決するために、どの方向で取り組むのか
たとえば、次のようにつながります。
FM目標:働きやすいワークプレイスをつくる
FM課題:部署間の交流スペースと集中できる場所が不足している
FM施策:業務に合わせて空間構成と席の使い方を見直す
目標、課題、施策を分けて考えることで、FM戦略は少しずつ実行できる形へ近づいていきます。
📚 ポイントまとめ
- FM目標は、ファシリティの将来の望ましい状態を示す
- FM目標は、経営目標から考える流れと、評価・改善から考える流れがある
- FM目標は、品質・財務・供給の三つの視点から設定する
- 数値や期限を用いて定量化すると、進捗・成果・必要な予算を判断しやすくなる
- FM課題は、FM目標と現在の状態の間にある、解決すべき差
- FM課題も、品質・財務・供給の視点で整理できる
- 現在の問題だけでなく、将来予想される変化と、その影響も課題として検討する
- ファシリティマネジャーは、選択肢や影響を整理し、経営幹部の意思決定を支援する
- 12の確認項目は、見落としを防ぎ、経営の理解と承認を得るために役立つ
🌱 今日のまとめ
FM目標は、組織がファシリティを通じて実現したい未来です。数値や期限を加えて具体化することで、目標までの距離と進み具合を確認できるようになります。
FM課題は、その未来と現在地の間にある、解決すべき差です。すでに起きている問題だけでなく、将来の変化によって生まれる課題も、品質・財務・供給の視点から考えます。
そして、ファシリティマネジャーは、その情報を経営が判断できる地図に整えます。
どの道を選ぶのかを最終的に判断するのは経営幹部です。しかし、現在地と選択肢が正しく描かれていなければ、よい判断はできません。
FM目標とFM課題を明らかにする仕事は、ファシリティの計画を立てるだけでなく、組織の未来を選ぶ意思決定を支える仕事でもあるのです。
🎮 次回予告
第6章③「FM施策の立案」へ
FM目標とFM課題が見えてきたら、次は課題を解決するための方向を決めます。
施設を活かすのか、統合するのか。働く場所をどう変えるのか。次回は、未来への道筋となるFM施策について学びましょう。
🔗 関連記事
- FM戦略とは?経営の目標をファシリティの未来へつなぐ|第6章①
- FM組織の運営とは?業務をつなぎ学び続ける仕組み|第5章③
- FMの財務管理とは?予算・コスト・施設資産をつなぐ|第5章④
- FMのデータ管理とは?情報を集めて経営判断に活かす|第5章⑤
- FMの標準と規程とは?仕事の品質をそろえる仕組み|第5章⑥
📖 参考資料・関連情報
- 『公式ガイド ファシリティマネジメント』
- 第6章「FM戦略・計画」
- 6.2.1「FM戦略の業務」
- 6.2.2「FM目標、FM課題とFM施策」
- 109~113ページ
- 図表6.2.2「FM戦略策定業務プロセス」
この記事は、公式ガイドに示されたFM目標の二つの設定経路、品質・財務・供給の視点、FM課題の検討方法を、初めて学ぶ人向けに整理したものです。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。