マズローの欲求段階説は、人が何を求め、何を大切にするのかを考えるための理論です。「安心して働きたい」「仲間と関わりたい」「自分の力を発揮したい」。働く意欲の背景には、さまざまな思いがあります。
前回は、働く環境から受けるストレスを考えました。今回は視点を広げ、人の欲求と働く場所との関係を、ぴよまるたちと見ていきましょう。
🐥 まずは3択クイズ!
🐥ぴよまる:新しいオフィスに「自由にアイデアを出そう!」って書いてあったんだ。でも、落ち着ける場所がなくて、ぼくはちょっと困っちゃった。
😸うちのねこさん:看板はやる気満々なのに、ぴよまるの居場所が追いついてないな。
🐥❓:働く意欲と環境を考えるとき、FMの視点として最も近いのはどれ?
- A.創造的に働いてもらうため、目立つ標語を増やす。
- B.安心して過ごせることや、人と関われることも含めて環境を考える。
- C.全員に同じ目標を与えれば、同じように意欲が高まる。
🐶うらのいぬさん:正解はBです。力を発揮できる環境を考えるには、安心や人との関わりにも目を向けたいですね。設備や標語だけで、全員の意欲が同じように高まるとは限りません。
🐔にわのとりさん:そこで手がかりになるのが、マズローの欲求段階説じゃ。人が求めるものを、いくつかの視点から眺めてみよう。
🧭 マズローの欲求段階説とは?
公式ガイドでは、心理学者アブラハム・マズローの「自己実現欲求理論」を紹介しています。「欲求段階説」とも呼ばれ、人は自己実現に向かって成長するという考え方をもとに、欲求を5つの段階で整理した理論です。
ここでいう欲求は、何かを欲しがることだけではありません。「安全でありたい」「仲間として受け入れられたい」といった願いも含みます。
| 公式ガイドで示す5つの欲求 | 身近な言葉で捉えると |
|---|---|
| 生存と生理の欲求 | 食事や睡眠など、生活の基本を満たしたい。 |
| 安心と安全の欲求 | 危険への不安を減らし、安心して過ごしたい。 |
| 所属と愛の欲求 | 人とつながり、受け入れられていると感じたい。 |
| 承認欲求 | 尊重されたい。自分の力や存在に価値を感じたい。 |
| 自己実現欲求 | 自分の能力を生かし、挑戦や創造、貢献をしたい。 |
この表の右側は、理論を身近に考えるために、記事独自の言葉で説明したものです。
🐥:欲求って、「もっと何かが欲しい」という意味だけじゃないんだね。
😸:オレも、自分の話をちゃんと聞いてもらえるとうれしいな。賛成してもらえるかは、その後でいいけど。
🐶:そういう「尊重してほしい」という思いにも、目を向けられますね。
🌱 欠乏欲求と成長欲求はどう違う?
公式ガイドでは、図の下側にある「生存と生理」「安心と安全」「所属と愛」「承認」の4つの欲求を、欠乏欲求として説明しています。足りないと感じると、それを満たしたいという思いが強くなり、ある程度満たされると、普段は意識しにくくなるという考え方です。
たとえば、安心して過ごせる場所があると、日々そのありがたさを考える機会は少ないかもしれません。しかし、不安を感じる状況になると、安心できることが大きな関心になります。
一方、自己実現欲求は成長欲求として位置付けられています。自分の力を生かしたい、よりよいものを生み出したいという思いです。
🐥💡:困っていることを減らす視点と、できることを広げる視点があるんだね。
🐔:うむ。働く場所を考えるときも、両方に目を向けたいのう。
🏢 マズローの欲求段階説を、FMにどう生かす?
公式ガイドは、ファシリティマネジャーが利用者のニーズや欲求を理解し、快適性や健康性、知的生産性などを考える手がかりとして、この理論を取り上げています。
ここでは、その考え方を働く場所に当てはめてみましょう。以下は公式ガイドの分類表ではなく、FMとのつながりを考えるための具体例です。
| 人が求めること | FMが環境面から考えられる例 |
|---|---|
| 生活の基本を保ちたい | 休憩や飲食、トイレなど、日常を支える場所やサービスを整える。 |
| 安心して過ごしたい | 安全な動線や分かりやすい避難案内などを確かめる。 |
| 人と関わりたい | 相談や交流をしやすい場所を考える。 |
| 尊重されたい | 利用者の声を聞き、使いにくさの改善や対応状況の説明につなげる。 |
| 力を発揮したい | 集中、話し合い、学びなど、活動に合う場所や道具を使えるようにする。 |
施設の改善だけで、すべての欲求を満たせるわけではありません。報酬や評価、仕事の任せ方、人間関係なども関わります。FMは、ほかの部門と連携しながら、人が活動するための環境を支える役割を担います。
🤝 同じ環境を、全員が同じように求める?
人との関わりを支える場所として、交流スペースを設けたとします。しかし、それだけで全員が「仲間として参加できている」と感じるとは限りません。
大勢で話す場所を使いやすい人もいれば、少人数で相談できる場所を必要とする人もいます。場所を設けたあとも、誰が使えているか、使いにくい人はいないかを確かめることが大切です。
🐥:ぼく、にぎやかな輪に入る前に、一人に相談できると助かるな。
😸💡:仲間を増やす場所にも、いろんな入口があるといいんだな。
🐔:そうじゃ。求めるものが似ていても、それを支える方法は一つとは限らんのう。
🪜 理論を、人の「段階判定」に使わない
5段階という整理は、理解の手がかりになります。ただし、この記事では「全員が同じ順番で進む」「下の欲求が完全に満たされないと、次の欲求は持てない」と決めつけて使いません。
安心を求めながら新しいことに挑戦するなど、人は複数の思いを持っています。理論をもとに「あの人はこの段階」と判定するより、今どんなことを求め、何に困っているのかを本人に確かめましょう。
🐶うらのいぬさん:5つの視点は、人を決めつけるためではなく、見落としているニーズに気づくために使いたいですね。
🐥💡:立派なアイデアを求める前に、安心して座れる場所があるかも見る。ぼく、それなら分かるよ。
📚 ポイントまとめ
- マズローの欲求段階説は、人の欲求を5つの段階で整理した理論。
- 公式ガイドでは、4つの欠乏欲求と、自己実現に関わる成長欲求を説明している。
- FMは、安心、交流、集中や学びなどを環境面から支えられる。
- 理論で人を判定せず、利用者の声や状況を確かめることが大切。
☀️ 今日のまとめ
力を発揮してほしいと願うとき、その人が安心して力を出せる場所にも目を向けてみよう。
➡️ 次回予告
次回は、知識を生む職場について考えます。「言葉だけでは伝えきれないコツ」や、周りの刺激の受け止め方の違いは、働く場所とどう関わるのでしょうか。
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📖 参考資料・関連情報
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会編『公式ガイド ファシリティマネジメント』第11章「人間性関連の知識」
- 11.2「人の感情、意欲に関係する知識」
- b.「マズローの自己実現欲求理論」
- 図表11.2.2「マズロー 欲求の5段階説」
この記事では、5つの欲求、欠乏欲求と成長欲求の区分、利用者のニーズを理解するために理論を参考にするという考え方を確認しました。
身近な言葉で欲求を説明する表、FMの環境面での対応例、クイズ、キャラクターの会話は、初学者向けに独自に再構成したものです。図表11.2.2の図そのものは転載していません。
本記事は公式ガイドの内容を参考にしていますが、原文の文章・図表を引用したものではなく、筆者が独自に再構成した解説です。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。