SLA・KPIは、アウトソーシングしたサービスの品質を、委託者とサービス提供者が一緒に確かめるための仕組みです。
清掃、警備、設備管理、受付などを外部へ任せても、契約を結んだだけで望んだサービスが続くとはかぎりません。
どのような状態を目指すのか。その状態に近づいているかを何で確かめるのか。そして、結果を次の改善へどう生かすのか。
今回は、サービスの約束と評価をつなぐSLA・KPIについて学びます。
🎯 今日のクイズ|サービス品質は何で確かめる?
🐥ぴよまる:外部の会社へ仕事を任せたあと、よいサービスが続いているかは、どうやって確かめるのかな?
😼うちのねこさん:担当者の顔が自信に満ちていたら、きっと大丈夫ニャ。オレも鏡を見るたびに安心するぞ。
🐥:うーん。自信だけでは、仕事の結果までは分からない気がするよ。
次のうち、もっとも適切な考え方はどれでしょうか。
- A:契約した会社を信頼し、その後はすべて任せる
- B:サービス水準を共有し、指標を使って結果を確かめる
- C:できるだけ多くの数字を集め、毎月順位をつける
🐶うらのいぬさん:正解は、Bの「サービス水準を共有し、指標を使って結果を確かめる」です。
SLAで目指すサービス水準を合意し、KPIを使って達成状況を確認します。結果を話し合い、必要に応じて仕事の進め方や目標を見直すところまでが大切です。
Aのように任せきりにすると、サービスの実態が見えにくくなります。一方、Cのように数字を増やしすぎても、測ること自体が仕事になってしまいます。
数字は、相手を責めるためではなく、よりよいサービスへ進むために使うものです。
📏 SLAとは?目指すサービス水準を共有する約束
SLAは、Service Level Agreementの略で、日本語では「サービス水準合意書」などと呼ばれます。
簡単にいえば、委託者とサービス提供者が「どのようなサービスを、どの程度の水準で提供するのか」を共有する約束です。
たとえば、設備の不具合に対応するサービスなら、次のような内容を話し合います。
- 何をサービスの対象とするか
- どのような状態を目指すか
- 誰が、どこまで担当するか
- 緊急時にどのように連絡するか
- 結果をいつ、どのように報告するか
- 水準に届かなかった場合に、どう改善するか
🐥:契約書に仕事の内容が書いてあれば、それだけでは足りないの?
🐔にわのとりさん:契約によって仕事の範囲や責任を決めることは大切じゃ。しかし、「よいサービスとはどんな状態か」まで、双方が同じように思い描いているとはかぎらんのじゃよ。
SLAには、言葉だけではずれやすいサービス品質のイメージを、双方で共有しやすくする役割があります。
ただし、SLAはサービス提供者だけに守らせる一方的な命令書ではありません。委託者側にも、必要な情報を渡す、判断を遅らせない、利用者へルールを周知するといった役割があります。
よいサービスは、一方だけの努力ではつくれないのです。
📊 KPIとは?約束へ近づいているかを確かめる指標
KPIは、Key Performance Indicatorの略で、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれます。
SLAで共有したサービス水準が、実際にどのくらい達成されているかを確かめるための指標です。
たとえば、「設備トラブルにすばやく対応する」という目標だけでは、人によって「すばやい」の意味が変わります。
そこで、次のような事実を記録します。
- 連絡を受けてから最初の対応を始めるまでの時間
- 復旧までにかかった時間
- 同じ不具合が繰り返された回数
- 利用者への報告が行われた割合
こうした情報のなかから、サービス水準の達成状況を判断するうえで重要なものを、KPIとして選びます。
😼:測れるものを全部KPIにすれば、完璧じゃないかニャ?
🐶:増やしすぎると、記録や報告に時間がかかり、本来のサービスへ使う力が減ってしまうよ。
KPIは、多ければよいわけではありません。目標とのつながりが強く、継続して測ることができ、結果を改善に使えるものへ絞る必要があります。
🔗 SLAとKPIはどう違う?
SLAとKPIは一緒に使われることが多いため、同じもののように見えます。しかし、それぞれの役割は異なります。
- SLA:どのようなサービス水準を目指すのかを共有するもの
- KPI:その水準へ近づいているかを確かめる指標
たとえば、会議室に関する問い合わせ対応なら、SLAでは「利用者が困ったときに、業務への影響を小さくできるよう対応する」という水準を共有します。
その達成状況を確かめるKPIとして、初回対応までの時間、解決した割合、同じ問い合わせの再発件数などが考えられます。
さらに、「初回対応を何分以内に行うか」「解決率を何%以上とするか」といった判断の境目を決めることがあります。
この境目は、公式ガイドでは「合意基準」として整理されています。
ただし、どの施設にもそのまま使える万能な数値はありません。施設の用途、サービスの重要性、利用時間、人員、費用、事故が起きた場合の影響などを考えて決めます。
🧭 SLA・KPIは目的から組み立てる
SLA・KPIをつくるとき、最初から数字を探すのはおすすめできません。
まず、「このサービスによって、誰のどんな困りごとを減らしたいのか」を考えます。
PralinePlanetでは、初心者向けに次の流れで捉えてみましょう。
- 目的を確かめる:安全、業務継続、快適性など、守りたいものを考える
- 目指す状態を言葉にする:サービスによって実現したい状態を共有する
- 確認方法を決める:結果を判断できるKPIを選ぶ
- 判断の境目を決める:どこまで達成すればよいかを合意する
- 記録して話し合う:定期的に結果を確認する
- 改善する:原因を調べ、方法や水準を見直す
これは公式ガイドの図表を置き換えたものではなく、SLA・KPIの意味を初学者がつかめるよう、記事独自の流れに再構成したものです。
🐥:約束を決めたら終わりじゃなくて、使いながら育てていくんだね。
🐔:そのとおりじゃ。施設の使われ方や経営の方針が変われば、必要なサービス水準も変わる。最初の数字を永遠に守り続ければよいわけではないのじゃ。
🔢 SLA・KPIの数値はどう決める?5つのコツ
SLA・KPIでは、「何分以内」「何%以上」「何件以下」といった数値を設定することがあります。
しかし、最初から理想だけを掲げると、現場では守れない目標になるかもしれません。反対に、簡単に達成できる数値では、サービスを改善する力が弱くなります。
数値を決めるときは、次の5つを確認します。
- 目的とつながっているか:その数値を達成すると、安全性や利便性など、本来の目的へ近づけるかを考える
- 現在の実績を把握したか:過去の記録や現在のサービス状況を確認し、出発点を知る
- 測り方が明確か:いつからいつまでを測るのか、誰が記録するのか、例外をどう扱うのかを決める
- 現実的でありながら改善につながるか:努力しなくても達成できる水準でも、無理をしなければ届かない水準でもないかを確かめる
- 品質と費用のバランスが取れているか:高い水準を求めることで、人員や費用が必要以上に増えないかを確認する
🐥:ほかの会社が使っている数値を、そのまま借りてはダメなの?
🐔にわのとりさん:参考にはできるが、そのまま正解にはできんのじゃ。施設の用途、利用時間、設備の重要性、利用者数、事故が起きた場合の影響などが違うからの。
たとえば、同じ「設備トラブルへの対応時間」でも、一般の会議室と、止まると診療へ影響する病院設備とでは、求められる水準が異なります。
🐶:最初から完璧な数値を当てようとせず、根拠を残して設定し、実績を見ながら見直すことが大切です。
😼:数字は石に刻むものではなく、現場に置く道しるべなんだニャ。向きが違っていたら、立て直せばいい。
⚠️ SLA・KPIを運用するときの落とし穴
SLA・KPIは、数値を決めただけではうまく働きません。実務では、次のような落とし穴に注意します。
- 測りやすいものだけを選ぶ:集計しやすさを優先し、本当に守りたい品質が抜け落ちる
- 測定条件がそろっていない:計測の開始時点や例外の扱いが曖昧で、結果を正しく比べられない
- 平均値だけで判断する:一部の大きな遅れや重大な問題が、平均のなかに隠れる
- 未達の原因をすべて提供者へ求める:委託者側の情報不足や承認の遅れが影響している場合もある
- 達成後も同じ指標を使い続ける:環境が変わっても見直さず、測る意味が薄れていく
🐶:数値が悪かったときは、誰の責任かを急いで決める前に、測り方や仕事の流れも確認します。
😼:数字は正直でも、数字の選び方には人間の都合が入り込むニャ。
🎯 数字の達成が目的になっていないか
KPIは便利ですが、数字だけですべての品質を説明できるわけではありません。
たとえば、問い合わせへの初回対応時間が目標内でも、説明が分かりにくかったり、利用者の不安が残ったりすることがあります。
反対に、大きなトラブルを避けるために慎重な調査を行い、一時的に解決時間が長くなることもあります。
そこで、数値による確認に加えて、次のような情報も見ます。
- 利用者から寄せられた意見
- 現場で起きている変化
- 苦情や要望の背景
- サービス提供者からの改善提案
- 事故や不具合が起きた原因
利用者満足度調査も、その一つです。ただし、満足度は利用者の期待や状況にも左右されます。点数だけで結論を出さず、自由記述や現場の記録などと組み合わせて考えることが大切です。
⚠️ KPIが目的に変わると何が起きる?
KPIは、本来の目的を確かめるための目印です。しかし、数値を達成することだけが目的になると、かえってサービスの質を損なう場合があります。
たとえば、「問い合わせを早く完了させた件数」だけを重視すると、十分に解決していない案件まで、完了として処理したくなるかもしれません。
😼:数字の上では大成功。でも利用者はまだ困っている……これは、数字だけが先にゴールしたニャ。
🐶:そうならないように、KPIが本来の目的とつながっているかを定期的に確認します。
また、KPIの達成結果を費用や評価へ反映する場合は、特に慎重な設計が必要です。達成を促す仕組みが、報告のゆがみや無理なコスト削減につながっていないかを確かめます。
📝 報告は成績発表ではなく、改善の相談材料
サービス提供者は、取り決めた方法に沿って、KPIの結果や発生した問題を報告します。
ファシリティマネジャーは、その報告を受け取るだけではありません。
- 目標へ届いたか
- 届かなかった原因は何か
- 一時的な問題か、繰り返す問題か
- 利用者や業務へどんな影響があったか
- 次にどのような対応をするか
こうした点をサービス提供者と話し合い、改善へつなげます。
サービス提供者による自己点検だけでなく、委託者側が記録や現場の状態を確認したり、必要に応じて第三者の視点を取り入れたりする場合もあります。
ただし、監視を厳しくすること自体が目的ではありません。事実を公平に確かめ、双方が改善へ動ける関係をつくることが大切です。
FM部門がすべての測定、点検、評価を直接行うとはかぎりません。サービス提供者、施設の担当部門、利用者、専門家などから情報を集め、全体を判断できる形へ整理することも、ファシリティマネジャーの役割です。
🔄 合意したSLAも定期的に見直す
SLAは、一度つくったら変えてはいけない約束ではありません。
働き方、施設の利用時間、利用者数、設備、経営方針などが変われば、求められるサービスも変わります。
また、目標が高すぎれば、必要以上の費用がかかる場合があります。低すぎれば、安全性や使いやすさを損なうかもしれません。
そのため、運用結果を見ながら、品質と費用のバランスを確かめます。
- 現在の水準は、目的に合っているか
- 測っているKPIは、本当に役立っているか
- 記録や報告の負担が大きすぎないか
- 新しい課題や利用者の変化を反映できているか
- よりよい方法へ変更できないか
達成できなかった結果も、ただの失敗ではありません。原因を知り、次の方法を考えるための材料になります。
🧩 RFP・SLA・KPIの位置関係
前回学んだRFPと、今回のSLA・KPIは、次のようにつながります。
- RFP:実現したいことや条件を示し、サービス提供者へ提案を求める
- SLA:業務で目指すサービス水準を、双方で合意する
- KPI:その水準へ近づいているかを継続して確かめる
順番だけを覚えるなら、「提案を求めるRFP、水準を決めるSLA、達成を測るKPI」と考えると、位置関係をつかみやすくなります。
🎁 おまけ劇場「三つの道具は、いつ登場する?」
🐥ぴよまる:RFP、SLA、KPI。アルファベットが続くと、頭の中で席替えしちゃうよ。
😼うちのねこさん:オレが順番を決めてやるニャ。まず提案を求めて、次に約束して、そのあと確かめる。
🐶うらのいぬさん:今回は、なかなかよい整理だね。
🐔にわのとりさん:提案を求めるRFP、サービス水準を共有するSLA、達成状況を測るKPIじゃ。
🐥:RFPで「どう実現しますか」と提案を求め、SLAで「ここを目指しましょう」と共有して、KPIで「どこまで届いたかな」と確かめるんだね。
😼✨:そして結果を見て、また改善する。アルファベット三兄弟も、並ぶとちゃんと働くニャ。
📚 ポイントまとめ
- SLAは、委託者とサービス提供者が目指すサービス水準を共有する約束
- KPIは、SLAで共有した水準へ近づいているかを確かめる指標
- KPIは多さではなく、目的とのつながりや改善への使いやすさが大切
- 数字だけで判断せず、利用者の声や現場の状況も組み合わせる
- 報告は成績発表ではなく、原因を確認して改善するために行う
- SLA・KPIは、施設や経営の変化に合わせて見直す
🌱 今日のまとめ|約束を、よりよい日常へつなげる
🐥:SLA・KPIって、外部の会社を採点するためのものだと思っていたよ。
🐔:もちろん、結果を正しく評価する役割もある。しかし、本当の目的は、必要なサービス品質を双方で共有し、よりよい状態へ近づくことなのじゃ。
🐶:数字が目標に届かなかったときも、責任を押しつけるだけでは改善につながりません。何が起きたのか、仕組みに問題はなかったかを一緒に確かめます。
😼:数字は結論じゃなくて、話し合いの入口というわけだニャ。数字だけにしゃべらせると、ときどき話を盛るからな。
🐥:目指す状態を約束して、結果を確かめて、また整える。その繰り返しが、よいサービスを育てるんだね。
SLA・KPIは、サービス提供者を縛るための数字ではありません。
委託者とサービス提供者が同じ方向を見て、日々の結果から学び、利用者を支えるサービスを育てていくための共通言語なのです。
🎮 次回予告:FM入門・第8章まとめ|10の基本をクイズでおさらい
運営維持、運用・サービス、維持保全、アウトソーシング、SLA・KPI。
第8章で広げた「完成した未来を、日々のなかで生かし続ける地図」を、10問のクイズで振り返ります。
🐥:今度は、ぼくも答えられるかな?
😼:全問正解したら、オレの優秀な助言のおかげということで頼むニャ。
🔗 関連記事
- 運営維持とは?施設を使い、守り、育て続ける仕事|第8章①
- 運用・サービスとは?ユーザーの日常を支える仕事|第8章②
- 運営維持のアウトソーシングとは?外部の力を生かす|第8章⑨
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📖 参考資料・関連情報
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会編『公式ガイド ファシリティマネジメント』第8章「運営維持」
- 8.4.4「アウトソーシングのプロセスとSLA・KPI」181~182ページ
- 8.4.6「運営維持業務におけるSLA・KPI」183~184ページ
- 8.4.7「SLA・KPIの構築」184~187ページ
- 8.4.8「SLAの運用」187ページ
- 8.4.9「SLA運用の関連事項」187~189ページ
- 図表8.4.2「設備管理業務におけるSLA・KPIの例」185ページ
- 図表8.4.3「SLA・KPIの構築手順」186ページ
- 図表8.4.4「月次のKPI報告の例」188ページ
この記事では、公式ガイドに示されたSLA・KPIの考え方、構築、報告、運用、改善の位置関係を確認したうえで、初心者が「約束する・測る・話し合う・直す」という流れをつかめるように整理しました。
本文中の会議室対応などの例や、6段階の流れ、RFP・SLA・KPIの覚え方は、理解を助けるために加えた独自の説明です。実際のSLA・KPIは、施設の用途、契約内容、サービスの重要性、組織の方針などに合わせて設計します。
本記事は公式ガイドの内容を参考にしていますが、原文の文章・図表を引用したものではなく、筆者が独自に再構成した解説です。
- 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。