15兆円も円を買ったのに、なぜ円安は止まらない? 米国まで介入した理由

15兆円も円を買ったのに、なぜ円安は止まらない? 投資

※本文は2026年8月30日時点で公表されていた情報を基に解説しています。その後の実績として、9月30日に公表された為替介入額を追記しました。本文と追記では、対象とする期間が異なります。

円安が止まりません。

2026年7月末、円相場は一時1ドル=164円に迫る水準まで下落しました。

そこで政府・日銀が動きます。

財務省によると、7月30日から8月26日までに行われた為替介入の総額は、

15兆3,993億円。

約1か月の対象期間に、日本がこれだけの規模で為替介入を行ったことを示す数字です。

しかも今回は、日本だけではありません。

米国も協調介入に参加しました。

ただし、ここには少し注意が必要です。

15兆3,993億円というのは、7月30日から8月26日までに日本が行った介入の総額です。

月次の総額だけでは、協調介入の日に日本がいくら取引したかまでは分かりません。

日米が協調して円買い介入を行ったのは7月31日。米国側がどれだけの規模で介入したのかは公表されていません。

それでも、米国が日本と足並みをそろえて円買い介入に参加したこと自体、かなり珍しい出来事です。

そして円は、その後の相場では、介入後も円安圧力が残るかが注目されました。

そこで二つの疑問が浮かびます。

15兆円を超える規模で介入したのに、なぜ円安は止まらないのでしょう?

そしてもう一つ。

そもそも日本の円相場に、なぜアメリカまで動いたのでしょう?

そのお話をする前に、まずは今日の主人公をご紹介します。

その前に――円坊やって、どんな子?

このブログでは、「円」を円坊やという男の子にたとえてお話しすることにします。

初登場ということで、ここで少しだけ円坊やの昔話を。

円坊や、もともとはわりと素直な子です。

戦後しばらくは、

1ドル=360円。

「君はここにいなさい」と決められた場所で、ずっと暮らしていました。

ところが1970年代に入り、日本も変動相場制へ移行します。

円坊やにも自由がやってきました。

そして1985年のプラザ合意。

世界の大人たちが「ドルはちょっと高すぎるよね」と話し合ったことをきっかけに、円坊やは猛烈な勢いで帰宅します。

その後も円高は進み、2011年には一時、1ドル=75円台まで帰ってきてしまいました。

🇯🇵🧒:帰ってきたよ~!

🇯🇵👩:いや、帰ってきすぎ。

円高になりすぎれば、今度は日本の輸出企業などが困ります。

円坊やはここで学びました。

出る杭は打たれる。

それ以来、なるべくクラスでも目立たず、おとなしくしていた……はずでした。

ところが、ここ数年。

海外を見ると、何やら楽しそうです。

特にアメリカ先輩。

日本より高い金利をつけて、

🇺🇸👱‍♂️:こっちにお金を置いたら、利息いっぱいつくよ。

なんて言っています。

🇯🇵🧒:へえ……。

どうやら円坊や、興味を持ってしまったようです。

投資家たちも、金利の低い円より金利の高いドルなどを持とうとします。

円が売られ、ドルが買われる。

すると円坊やは、少しずつ家から遠ざかっていきました。

140円。

150円。

そして160円……。

🇯🇵👩:円坊や! そろそろ帰ってきなさい!

🇯🇵🧒:はーい。

……と言いながら帰ってこない。

🇯🇵👩:こらー、聞こえてる?

🇯🇵🧒:聞こえてるー。

🇯🇵👩:もう160円でしょう!

🇯🇵🧒:あと1円だけ~!

反抗期なのでしょうか。

いえいえ。どうも円坊やは、悪い子になったわけではなさそうです。

周りの金利や景気、金融政策、世界を動き回るお金に、とても影響されやすいだけ。

そして2026年夏。

とうとうお母さん――日本政府が、本気で円坊やを連れ戻しに来ました。

そのために動かした金額は、15兆円超。

しかも今回は、

🇺🇸👱‍♂️:……Hey, boy. Meも行く。

なんと、意外なリアクションが。

🇯🇵🧒:え。

さっきまで一緒に遊んでいたアメリカが、なぜ今度は日本と一緒に動くのでしょう?

ここからが、今日のお話です。

追記|2026年9月30日公表:その後の日本の介入額は0円

財務省が9月30日に公表した、2026年8月27日~9月28日の為替介入額は0円でした。

この記事で取り上げた7月30日~8月26日の15兆3,993億円とは、別の対象期間の実績です。少なくとも8月27日~9月28日には、日本の通貨当局による実際の通貨売買を伴う為替介入は行われていませんでした。

ただし、9月29日以降は今回の公表の対象外です。また、日本の公表資料であり、米国側の介入実績を示すものではありません。

介入額が0円だったことだけで、夏の介入が「成功した」「失敗した」と判断することもできません。相場の水準だけでなく、急激な変動や市場の混乱をどこまで抑えたかも見る必要があります。

円が急に動いたとき、介入の有無をどう確かめるのかは、こちらの記事で解説しています。

円が急騰したら何が起きている? 為替介入の足跡の探し方

出典:財務省「外国為替平衡操作の実施状況(2026年8月27日~9月28日)」

※ここまでの「円坊や」はたとえ話です

もちろん、ここまでの「円坊やを連れ戻す」というお話は、為替の動きを分かりやすくするためのたとえです。

実際には、日本政府が「円を○円まで戻す」という目標を掲げて、円相場を動かそうとしているわけではありません。

政府が問題としているのは、為替相場の過度な変動や無秩序な動きです。

また、米国も「円を日本へ戻すため」に参加したわけではありません。

米国は日本との協調介入に参加しましたが、介入規模は公表されていません。

では、なぜ日本の円相場にアメリカまで動いたのでしょうか。

ここからは、実際の為替市場のお話です。

そもそも「円買い介入」って何をするの?

🐥:円安が大変だから、政府が円を買ったんだよね?

🐔:そうじゃ。

🐥:……それはどこのどちら様から?

🐔:そこからか。

🐥:だって「円を買う」って言われても、スーパーとかに円は売ってないもん。

🐶:外国為替市場で、政府が持っている外貨を売って、その代わりに円を買うんだわん。

為替介入の正式名称は、「外国為替平衡操作」といいます。

日本では財務大臣が実施を決め、日本銀行が財務大臣の代理人として実際の取引を行います。

今回のように急激な円安に対応する場合、日本側では外為特会が保有するドル資金を売り、その代わりに円を買います。

市場に大きな円買いが入ることで、急激な円安の動きを押し戻す力を加えるわけです。

「15兆円」って、税金を15兆円使ったの?

🐥:ちょっ、ちょっと待って!!

🐔:なんじゃ。

🐥:15兆円!?

🐶:大きな金額だわん。

🐥:ボクたちの税金を15兆円使って、円を買ったの?

🐱:15兆円……。オレたちのお財布から出ていったのかニャ?

🐶:ここは誤解しやすいところなんだわん。

今回の「15兆3,993億円の介入」は、国が15兆円分の商品やサービスを買って、そのお金がなくなったという話ではありません。

日本政府には、外国為替資金特別会計(外為特会)という仕組みがあります。

財務省によると、円買い介入では、外貨建て債券の売却などによって外貨を調達し、

外貨を売る
↓
円を買う

という取引を行います。

つまり、大ざっぱにいえば、保有している資産の形を外貨から円へ交換する取引です。

🐥:じゃあ「税金15兆円が消えちゃった!」ではないんだ。

🐶:そういう意味ではないんだわん。

もちろん、外貨資産の運用には収益や費用があり、為替の変動によって資産価値も変わります。

でも、

「15兆円介入した」=「税金15兆円を使ってなくした」

ではありません。

アメリカも協調介入に参加した

今回とても珍しかったのが、日米による協調介入です。

日本の財務省によると、米国東部時間の7月31日、日本の財務省は米国財務省と協調して円買い介入を実施しました。

財務省は、その目的について、

最近見られた円の「過度な変動や無秩序な動き」に対処するため

と説明しています。

🐥:でも、なんでアメリカまで?

🐔:そこが今回の大事なところじゃ。

その前に、今回の米国側の介入には、ちょっと面白いところがあります。

米国側の資金と、介入の目的を分けて考える

米国側の介入に関しては、「どの資金を使ったか」と「なぜ参加したか」を分けて読むと整理しやすくなります。

米国には、財務省が管理する為替安定化基金(ESF)があります。日本の外為特会と同じ制度ではありませんが、為替に対応するための資金を持つ仕組みです。

ラッセル・インベストメントの2026年8月の解説では、今回、米国はユーロ建ての外貨準備を使って円を購入したと説明されています。大和総研も、ユーロ売り・円買いを実施したとされる点に触れています。

ここは専門機関の解説に基づく情報として扱い、日本側の介入総額15兆3,993億円と混ぜないようにします。この日本の月次公表額から、米国の介入額を読み取ることはできません。

🐥:日本が買った分と、アメリカが買った分は、別のお財布なんだね。

🐶:そうだわん。大きな数字を見たら、誰の、いつの取引なのかを確かめるんだわん。

なぜ米国まで動いたの? 公表された目的と専門家の分析

日本の財務大臣談話は、今回の協調介入について、円相場の過度な変動や無秩序な動きへの対応と説明しています。

一方、大和総研の矢作大祐氏は、米国の参加には米国債市場や米金利への懸念もあった可能性を論じています。

日本が介入資金の確保のために米国債を売ると市場が考えれば、米国債市場に影響が及ぶ可能性がある、という分析です。ただし、これは専門家の見立てであり、米国政府の動機を確定するものではありません。

🐥:アメリカが何を心配していたかは、説明と推測を分けて読むんだ。

🐔:そうじゃ。もっともらしい理由でも、確認された事実と同じには扱えん。

為替の大きな変動は、ほかの資産の売買にもつながることがあります。その仕組みの一つとして、円キャリートレードを見てみましょう。

円キャリートレードも関係している

ここで登場するのが、円キャリートレードです。

これは、金利の低い円で資金を調達し、より高い収益が期待できる海外の通貨や資産などへ投資する取引です。

ところが、急な円高や調達金利の上昇などによって取引の採算が悪化すると、それまで積み上がっていた取引を一斉に解消する動きが起こることがあります。

すると円が買い戻される一方、別の資産が売られ、市場の値動きがさらに大きくなる可能性があります。

これは金融市場で起こり得る一般的な仕組みです。今回の米国の参加理由を、円キャリートレードだけで説明できるという意味ではありません。

🐥:円坊や一人の問題だと思ってた。

🐔:金融市場では、いろいろなお金の流れがつながっておるからのう。

🐶:一つの取引をやめるために、別の資産を売ることもあるんだわん。

それなのに、なぜ円安は止まらないの?

さて、最初の疑問へ戻りましょう。

日本は7月30日から8月26日までに、

15兆3,993億円

の為替介入を行いました。

介入が行われれば、大きな円買いによって円相場を押し戻す力が働きます。

実際、介入局面では円相場は大きく円高方向へ動きました。

ですから、

「15兆円も使ったのに、まったく効かなかった」

というわけではありません。

問題は、その効果がずっと続くとは限らないことです。

なぜでしょう。

為替介入と、円が売られる背景は別のもの

ここでまず押さえておきたいのが、

為替相場は一つの理由だけで動いているわけではない

ということです。

現在の円相場を考えるうえで、日米の金利差は大きな要因の一つです。

米国の金利が日本より高ければ、

「同じお金を置いておくなら、より高い利回りが期待できるところへ」

と考える投資家が増えやすくなります。

すると、

円を売る
↓
ドルなどを買う

という力が働きます。

円相場を動かすのは金利差だけではない

でも、円相場を動かしているのは金利差だけではありません。

たとえば、米国の景気やインフレ。

米国の物価上昇がなかなか収まらず、高い金利が長く続くと市場が考えれば、ドルを持とうとする動きにつながることがあります。

一方、日本では、

日銀がこれからどのくらいのペースで金融政策を正常化していくのか

も重要です。

「日本の金利はこれから上がっていきそうだ」と市場が考えるのか。

それとも、

「まだゆっくりだろう」

と考えるのか。

その見方によっても円は動きます。

さらに、先ほど登場した円キャリートレードの拡大や巻き戻し。

そして、世界の投資家が、

「今は多少リスクを取っても大丈夫そうだ」

と考えているのか、

「ちょっと危ない。リスクを減らそう」

と考えているのか。

こうした世界的なリスク選好の変化でも、お金の流れる方向は変わります。

つまり円相場は、

日米金利差をはじめ、米国の景気や物価、日本の金融政策、キャリートレード、世界の投資家心理など、いくつもの要因が重なって動いている

のです。

為替介入は、円売りの背景まで変えるわけではない

政府が外貨を売って円を買えば、市場に円買いの注文が入ります。急激な円売りの動きを抑える力になることがあります。

しかし、その取引だけで日米の金利差や景気、金融政策への見通しが変わるわけではありません。円を売る方向に働く条件が残っていれば、介入後も円安方向へ動くことがあります。

たとえるなら、急な動きにブレーキをかけることと、その動きを生み出す条件を変えることは別なのです。

介入の効果も、いつでも同じとは限りません。ほかの政策や経済指標、市場参加者の取引が重なって相場は動くため、値動きのすべてを介入だけの効果とすることはできません。

じゃあ、為替介入は意味がないの?

🐥:だったらさ。

🐔:うむ。

🐥:また円安になるなら、介入する意味ないんじゃない?

🐱:でも、急に円安が進んだら、輸入するものの値段にも影響しそうだニャ。

🐶:そうとも言えないんだわん。ねこさんが言ったように、為替が急激に動けば、私たちの暮らしや企業にも影響が出ます。大切なのは、為替の水準だけでなく、動き方なんだわん。

ここでもう一度、為替介入の目的を思い出してみましょう。

財務省は、為替相場は基本的に経済のファンダメンタルズや市場の需給によって決まるものだとしたうえで、短期間に大きく変動するなど不安定な動きを示す場合には、為替相場の安定を目的として介入することがあると説明しています。

つまり為替介入は、政府が

「1ドル○円が正しい水準」

と決め、その水準へ円相場を戻して固定するための政策ではありません。

大切なのは、為替の水準だけでなく、動き方です。

短期間に相場が大きく動けば、輸出入を行う企業も、海外へ投資する人も、将来の計画を立てにくくなります。

為替の急変は、企業の資金計画や投資家の資産売買にも影響します。円相場を見るときには、ほかの市場とのつながりにも目を向けたいところです。

だから、

「介入したのに何円までしか戻らなかった」

だけで効果を判断するのではなく、

急激な変動をどこまで抑え、市場の混乱を防げたのか

という視点も必要なのです。

円坊や、本当に帰ってくる?

🐥:じゃあ、円坊やはどうしたら帰ってくるの?

🐔:そこが難しいところじゃ。

為替介入だけを見ていると、

「15兆円も動かしたのに、どうして円安が戻ってくるの?」

という疑問になります。

でも、本当に考えなければならないのは、

「なぜ円が売られているのか」

です。

そして、その大きな鍵の一つが金利です。

日本でも、長く続いた「金利のほとんどない世界」が変わり始めています。

金利の話は、暮らしや国のお財布にもつながる

金利が変わると、預金や住宅ローン、企業の借入費用にも影響します。国が新たに発行したり借り換えたりする国債の利払いにも関係します。

🐱:円坊やの話だったのに、オレたちのお財布につながってきたニャ。

この仕組みは、次の記事で考えてみましょう。
金利が上がると国の借金はどうなる? 国債費36.6兆円から考える「金利のある世界」

為替介入のニュースで確かめたい3つのこと

介入のニュースを読むとき、私はまず次の3つを確かめたいと思います。

① 金額は、誰の、どの期間の実績か。
② 政府が公表した説明と、専門家の分析は分かれているか。
③ 相場の水準だけでなく、変動の速さや暮らしへの影響も見ているか。

数字の大きさだけに驚くより、数字の意味を確かめる。そうすると、ニュースの見え方も少し変わります。

日本は、15兆円を超える規模の為替介入を行いました。

米国との協調介入も行われました。

そこから見えてくるのは、為替が単なる「1ドル何円」という数字ではないことです。

円相場が大きく揺れれば、輸入品の価格や企業の計画、投資家の資産売買にも影響が及びます。

それでも再び円安方向へ動くことがあるのは、為替介入にはできることと、できないことがあるからです。

為替介入は、急な動きを抑える力になり得る。
でも、円が売られる背景まで、一度に変えるわけではない。

さて。

まだ夜遊び中の円坊や。

🇯🇵👩:いいかげん帰ってきなさーい!

🇯🇵🧒:聞こえてるー!

……どうやら、まだしばらく目が離せそうにありません。

参考にした資料

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