ガソリン170円は「本当の値段」じゃない? 補助金がなかった日本を考えてみた

ガソリン170円は本当の値段じゃない? 時事・ニュース解説

ガソリンスタンドの前を通ると、大きな数字が目に入ります。

170円。

「まだ高いなあ」

そう思っていたら、ニュースではこんな数字が出ていました。

9月7日時点のレギュラーガソリン全国平均は、1リットル170.0円

そして原油価格の上昇を受けて、9月10日から16日までのガソリン補助金は、1リットル当たり36円です。

🐥ぴよまる:……36円も補助してるの?

🐔にわのとりさん:そうじゃ。それで全国平均を170円程度に抑えておるんじゃよ。

🐥:…………。

🐥:抑えて170円なの!?

そう聞くと、次に気になることがあります。

では、補助金がなかったら、ガソリンはいくらになるのでしょうか。

170円に36円を足して、206円?

実は、そんなに単純ではありません。

今日はガソリンスタンドに掲げられた「170円」という数字を入口に、私たちが普段あまり見ることのない、ガソリン価格の向こう側をたどってみます。


170円+36円=206円、ではない

まず、大事なところから。

政府から1リットル当たり36円の補助が出ているからといって、

170円+36円=「本当のガソリン価格206円」

とは言えません。

現在の補助金は石油元売事業者などに支給され、卸価格の上昇を抑えることで、店頭価格の急激な上昇を抑える仕組みです。

そして、私たちがガソリンスタンドで見る価格には、

原油価格
+ 為替
+ 精製・流通コスト
+ 税金
- 政府の価格抑制策
+ 販売店の経費・利益など

店頭価格

という、さまざまな要素が関係しています。

だから36円は、「170円に足せば本当の値段が分かる数字」ではなく、

いま、どれくらいの規模で価格上昇を抑えているのかを見る数字

と考えるのがよさそうです。

しかも、支援の対象はガソリンだけではありません。

軽油や灯油、重油、航空機燃料なども対象になっています。

つまり、この制度は「車を持っている人のガソリン代だけ」を支えるものではないのです。


そもそも、どうしてガソリンは高くなるの?

ガソリン価格を考えるとき、まず登場するのが原油価格です。

日本は原油の大部分を海外から輸入しています。

世界で原油価格が上がれば、日本が買う原油も高くなります。

そして、もう一人忘れてはいけないのが――。

🇯🇵🧒円坊や:「ぼく?」

そう。為替です。

原油は国際市場では主にドルで取引されます。
🔗関連記事「15兆円も円を買ったのに、なぜ円安は止まらない? 米国まで介入した理由

たとえば、同じ100ドルのものを買うとして、

1ドル=160円なら、16,000円。

1ドル=153円なら、15,300円。

円高になれば、同じドル価格のものを買うために必要な円は少なくなります。

🇯🇵🧒:ほら! ぼく、160円近くから円高に帰ってきたよ!

🐥:じゃあ、ガソリンも安くなる?

🐔:ところが、そう簡単でもないんじゃ。

円が高くなっても、原油そのもののドル価格が上がれば、円高の効果が打ち消されることがあります。

つまり、

円高による値下げ方向の力

と、

原油高による値上げ方向の力

が綱引きをしているようなものです。

🇯🇵🧒:ぼく一人じゃ無理だよ!

🐔:円坊やも頑張っとるんじゃがのぅ。


ガソリン補助金は、いつから始まったの?

時計を2022年まで戻してみましょう。

新型コロナ禍から世界経済が回復するなか、石油需要が増える一方、一部の産油国では生産が停滞し、原油価格が上昇していました。

そこで政府は2022年1月、燃料油価格激変緩和対策事業を開始しました。

最初は、全国平均のガソリン価格が170円以上になった場合に、ガソリン・軽油・灯油・重油について、1リットル当たり最大5円を支給する仕組みでした。

2022年1月24日の全国平均が170.2円となったため、1月27日から支給が始まります。

ところが、その直後。

ロシアによるウクライナ侵略が始まり、世界のエネルギー市場はさらに不安定になります。

政府は支援を拡大。

3月には上限を25円、4月には35円へ引き上げ、さらに35円を超える部分についても一部を支援する仕組みへ変更しました。

政府の試算では、2022年には、補助がなければレギュラーガソリンが1リットル200円を超えると見込まれた時期もありました。

その後、制度は縮小したり、形を変えたりしながら続き、2025年には定額の引下げ措置へ移行。

年末のガソリン暫定税率廃止に合わせて、いったん終了しました。

ところが2026年3月、中東情勢の緊迫化による原油価格の急騰を受けて、政府は再び「緊急的激変緩和措置」を開始しました。

最初の対策が始まった2022年1月から数えれば、4年半以上にわたって、形を変えながら燃料価格への支援が行われてきたことになります。


いったい、どれくらいのお金を使ってきたの?

ここで、ちょっと座ってから数字を見たほうがいいかもしれません。

2022年から続いてきた燃料油価格支援について、政府資料に示された累計予算額は8兆1,719億円に達しています。

🐥:8兆円!?

🐔:そうじゃ。何兆円という規模の予算が積み上がっておるんじゃ。

ただし、ここはとても大切です。

8兆1,719億円=実際にすべて使い切った金額

という意味ではありません。

これは、支援のために措置された予算額の累計です。

さらに2026年3月、政府は燃料油価格の緊急措置を続けるため、一般会計予備費から7,948億円を基金事業へ追加で措置しました。

つまり、2022年からの対策には非常に大きな規模の予算が用意され、2026年にも新たな財政措置が必要になったことになります。

では、なぜそこまでして燃料価格を抑えるのでしょう。

ガソリンが高くなったら困るから?

もちろん、それもあります。

でも話は、ガソリンスタンドだけでは終わりません。


🐥ぴよまる劇場

もし、2022年に補助金がなかったら

🐥:にわのさん。もし2022年に、この補助金を始めてなかったら、どうなってたの?

🐔:では、ちょっとだけ“もうひとつの日本”をのぞいてみるかの。


原油価格が上がりました。

円安も進みました。

でも、この世界には燃料価格を抑える補助金がありません。

ガソリン価格は、その影響をより強く受けます。

🐥:ガソリンが200円を超えちゃった……。

でも、上がるのはガソリンだけではありません。

軽油も上がります。

🐥:軽油って?

🐔:トラックなどでたくさん使われる燃料じゃよ。

ここで、ひとつ数字を見てみましょう。

2023年度の日本の国内貨物輸送量を重量(トン)ベースで見ると、営業用と自家用を合わせたトラックの分担率は、91.7%

実に9割以上です。

🐶うらのいぬさん:そんなにトラックが運んでいるんだわん。

🐥:ぼくたちが買うものも?

🐶:身の回りのものを見てみると、ずいぶんトラックのお世話になっているんだわん。

もちろん、長距離輸送では船や鉄道も重要な役割を担っています。

それでも、私たちの身の回りにあるものの多くは、どこかでトラックのお世話になっています。

野菜や牛乳、日用品を運ぶトラック。

宅配便を届けるトラック。

だから軽油などの燃料価格が上がれば、その影響は物流コストにも広がっていきます。

燃料代が上がっても、運送会社がずっと自分たちだけで負担し続けることはできません。

少しずつ、運送料金などへ転嫁されていきます。

すると今度は、商品をつくったり売ったりする会社のコストも上がります。

さらに寒い地域では、灯油価格の上昇が暖房費に影響します。

農業や漁業、工場などでも燃料は使われています。

つまり燃料価格の上昇は、

ガソリンスタンド

だけにとどまりません。

運ぶ。
つくる。
暖める。
届ける。

いろいろな場所を通りながら、少しずつ暮らしへ入ってきます。

そして最後には、スーパーやコンビニの値札にも、その影響が現れるかもしれません。

🐔:2022年からの原油高が、今よりもっと強く物流や企業のコストを押し上げ、それが物価を通して家計へ届く――という状況になっているかもしれんかったのぅ。

🐥:……ぼく、ガソリンの補助金って、車に乗る人のためのものだと思ってた。

😸うちのねこさん:オレもだニャ。ねこは車を運転しないから、関係ないと思ってたニャ。

🐥:でも、ねこさんのごはんだってトラックで運ばれてくるよ。

😸:…………!

🐥:気づいてなかったの?

😸:たいへん関係があったニャ。

🐥:急に真剣になったね。

😸:ごはんは大事だニャ。


では、大きな予算を使って補助を続ければいいの?

ここまで読むと、

「それなら補助金を続ければいいじゃない」

と思うかもしれません。

でも、話はそこで終わりません。

補助金の財源も、国のお金です。

しかも燃料油価格激変緩和対策は、もともと急激な価格上昇から暮らしや経済活動を守るために始まった措置です。

価格を抑えている間は、家計や企業への急激な負担を和らげることができます。

一方で、長く続ければ財政負担は大きくなります。

さらに、世界の原油価格が高い状態そのものを、補助金で解決できるわけではありません。

日本が化石燃料の多くを海外に頼っている構造も変わりません。

補助金は、嵐の中で暮らしを守る防波堤にはなります。

でも、防波堤を高くし続けるだけでは、海そのものが荒れたときの問題は解決しません。


そして、その波は再び暮らしへ向かっている

この話は、2022年だけのものではありません。

2026年9月現在、国際原油価格は再び高い水準にあり、政府はガソリン価格を全国平均170円程度に抑えるため、補助金の支給を続けています。

9月10日から16日までのガソリン向け補助額は、1リットル当たり36円です。

政府も、原油高によるコスト上昇が食品などの消費財価格へ徐々に波及する可能性に注意を促しています。
🔗関連記事「食料品の消費税「実質ゼロ」とは? なぜ0%ではなく1%なのかをわかりやすく解説

つまり、4年半前に始まった「燃料価格と暮らし」の問題は、まだ終わっていないのです。


170円の向こう側を見てみる

ガソリンスタンドで170円の表示を見る。

「高いなあ」

それだけなら、昨日までと同じです。

でも、その数字の向こう側には、

世界の原油市場があって、

円坊やがいて、

政府の補助金があって、

トラックが走っていて、

スーパーに商品が並び、

私たちの家計へつながっています。

そして、その値段を抑えるために使われているのも、私たちの社会のお金です。

だから、

「補助金は良い」
「補助金は悪い」

と簡単には決められません。

急激な価格上昇から暮らしを守ることも大切。

でも、大きなお金を使い続けなければならないエネルギーの仕組みそのものを考えることも大切です。

🐥:170円って、ただのガソリンの値段じゃなかったんだね。

🐔:値札を一枚めくってみると、その向こうにいろんなものが見えてくるもんじゃよ。

😸:オレのごはんも見えたニャ。

🐥:ねこさん、それが一番だったね。

😸:大事なことだニャ。

次にガソリンスタンドの前を通ったとき。

あの大きな「170」という数字が、ほんの少し違って見えるかもしれません。

それは、単なるガソリンの値段ではなく、エネルギーと物流と補助金、そして私たちの暮らしが重なってできた数字だからです。


参考資料・関連情報

🔗資源エネルギー庁「エネルギー白書2022」
2022年の制度開始と当初の支援内容

🔗資源エネルギー庁「エネルギー白書2023」
原油高と燃料油価格激変緩和対策の効果

🔗国土交通省「輸送量及び交通事業等の動向」 — 国内貨物輸送に占めるトラック91.7%(2023年度・トンベース)

🔗財務省「2026年3月24日 財務大臣記者会見」
燃料油価格激変緩和対策へ7,948億円を措置

🔗財務省「2026年3月13日 財務大臣記者会見」
ガソリンを全国平均170円程度に抑制する2026年の緊急措置

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