会社には、人手不足、コストの増加、災害への備え、環境への対応など、さまざまな課題があります。
こうした問題は、人事や経理、経営企画だけが考えるものなのでしょうか。
実は、働く場所や設備の使い方を見直すファシリティマネジメント(FM)も、経営課題の解決を支える役割を担っています。
今回は、FMが建物や職場環境を通して、どのように会社の活動を支えるのかを見ていきましょう。
まずは3択クイズ
【問題】会社が人手不足に悩んでいるとき、FMの取り組みとして最も適切なのはどれでしょう?
- 人材採用は人事部の仕事なので、FMは関わらない
- オフィスを広くして、机の数を増やす
- 働き方を調べ、業務を進めやすい環境や設備を整える
少し考えてから、ぴよまると一緒に答えを選んでみましょう。
🐥ぴよまる:ぼくは「2番」かな。机が増えれば、働ける人も増やせそうだもの。
🐶うらのいぬさん:正解は、3番です。見分けるポイントは、場所を増やすことではなく、経営課題の原因に合った環境を考えているかです。
では、なぜ3番になるのでしょう。ここから、FMと経営課題のつながりを順番に見ていきます。
FMは建物ではなく、その先にある経営活動を支える
🐥:FMは建物や設備を管理する仕事だと思っていたけど、人手不足にも関係するの?
🐔にわのとりさん:FMが直接、人を採用するわけではない。しかし、働く人が力を発揮しやすい環境を整えることで、経営課題の解決を支えることはできるんじゃよ。
たとえば、人手不足の職場で次のような問題が起きていたとします。
- 必要な書類や備品を探す時間が長い
- 打ち合わせに使える場所が足りない
- 部署が離れていて移動に時間がかかる
- 空調や照明に不具合があり、仕事に集中しにくい
- テレワークと出社を組み合わせにくい
こうした問題を調べ、空間の配置、設備、運用方法などを見直せば、限られた人数でも仕事を進めやすくなる可能性があります。
つまり、FMは人手不足そのものを解消するのではありません。
働く環境にある障害を減らし、人や組織の活動を支えるのです。
🐶:試験で迷ったときは、「FMが経営課題を直接すべて解決する」のではなく、「ファシリティの面から解決を支援する」と考えると整理しやすくなります。
経営課題によって、FMの取り組みも変わる
会社が目指すことによって、必要なファシリティの姿は変わります。
| 経営上の課題や目標 | FMで考えられる取り組み |
|---|---|
| 人手不足や働き方の変化 | 動線、座席配置、会議環境、ICT設備の見直し |
| コストの適正化 | 使用状況の把握、省エネルギー、契約や保全計画の見直し |
| 災害や事故への備え | 設備点検、備蓄、避難計画、事業継続を支える環境整備 |
| 環境負荷の低減 | エネルギー使用量の把握、設備更新、廃棄物削減 |
| 組織の成長や変化 | 拠点配置、スペース計画、増員や組織変更への対応 |
🐥:同じFMでも、会社の悩みによって考えることが違うんだね。
🐔:その通りじゃ。設備を新しくすること自体が目的ではない。経営上の目的を確認し、それに合った方法を選ぶことが大切なんじゃよ。
たとえば、会議室が足りないという声があっても、すぐに増設するとは限りません。
利用状況を調べると、大きな会議室を少人数で使っていたり、予約されたまま使われていなかったりすることがあります。
その場合は、部屋を増やすより、予約方法や間仕切り、Web会議設備を見直すほうが適切かもしれません。
FMでは、目の前の要望をそのまま答えにせず、経営課題と施設の現状を結びつけて考えます。
コスト削減だけがFMの答えではない
🐥:会社を支えるなら、建物にかかるお金を減らせばいいんじゃないの?
🐔:費用を適切に管理することは大切じゃ。しかし、安くすることだけを目標にすると、別の問題が生まれることもあるぞ。
設備の点検回数や修繕費を減らせば、短期的には支出が少なく見えるかもしれません。
しかし、その結果として故障が増えたり、安全性が低下したりすれば、業務の停止や大きな修繕につながる可能性があります。
反対に、快適性を高めようとして設備やサービスを増やしすぎれば、費用やエネルギー使用量が増えることもあります。
FMでは、次のような視点を一緒に考えます。
- 安全性
- 利用者の使いやすさ
- 業務への影響
- 費用
- エネルギーや環境への影響
- 将来の修繕や更新
- 災害や故障などのリスク
😸うちのねこさん:快適性は最優先でよいと思うニャ。夏は涼しく、冬は暖かく、昼寝場所は静かにするニャ。
🐶:ねこさんには理想的ですが、FMでは費用や環境への影響とのバランスも確認します。
😸:では、オレの快適性を中心に全体最適を考えるニャ。
🐔:中心の置き場所が、やや自分寄りじゃのう。
どれか一つだけを最大にするのではなく、組織の目的や施設の条件に合わせて全体のバランスを考える。これがFMにおける「全体最適」の大切な視点です。
FMは「見えない土台」を継続して整える
設備が問題なく動き、必要な場所が使え、安心して仕事ができる状態は、普段はあまり目立ちません。
けれども、その状態は自然に続くものではありません。
FMでは、施設や設備の状態、利用状況、費用、エネルギー使用量、利用者の声などを確認しながら、次のような流れで改善を続けます。
- 経営上の目的を確認する
- 施設や職場の現状を調べる
- 課題と原因を整理する
- 優先順位と計画を決める
- 対策を実行する
- 効果を評価し、次の改善につなげる
🐥:一度きれいな職場をつくれば終わり、というわけじゃないんだね。
🐔:会社の人数や働き方、技術、社会の状況は変わっていくからのう。ファシリティも、その変化に合わせて見直していく必要があるんじゃ。
FMの価値は、新しい建物をつくったときだけに生まれるものではありません。
問題が起こりにくい状態を保つこと、変化に対応できるよう準備すること、限られた資源を目的に合わせて配分することも、企業活動を支える大切な働きです。
今日のまとめ
冒頭のクイズの正解は、
3.働き方を調べ、業務を進めやすい環境や設備を整える
でした。
FMは、人手不足やコスト、環境対応などの経営課題を単独で解決するものではありません。
しかし、建物、設備、空間、費用、情報、環境、リスクを経営の目的に合わせて整えることで、組織が課題へ取り組むための基盤を支えます。
試験や実務で迷ったときは、次の順番で考えてみましょう。
会社は何を実現したいのか
↓
そのために、人や組織はどのように活動するのか
↓
その活動を、施設や環境からどう支えるのか
FMは、建物を守るだけの仕事ではありません。
建物の向こう側にいる人と、組織が進もうとしている未来を見ながら、足元の土台を整える経営活動なのです。
次回予告:企業経営から見たFMの効果
次回は、FMの取り組みによって生まれる効果を、品質・財務・供給などの視点から見ていきます。
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参考資料・関連情報
🔗『公式ガイド ファシリティマネジメント』第2章「ファシリティマネジメントの効果」2.1.6「経営基盤と経営課題の解決」
🔗 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
日本におけるFMの普及と、ファシリティマネジャーの育成を行っている公式団体です。同協会もFMを経営基盤に関わる活動として扱っています。
※本記事はFMの基本的な考え方を初心者向けに整理したものです。実際の出題範囲や用語の定義は、受験年度の公式案内・公式教材もあわせてご確認ください。