消費税をゼロにするのに、税率は1%。
この“1%の謎”をほどくと、消費税の仕組みが一気に見えてきます。
「食料品の消費税が実質ゼロになる」
最近、そんなニュースを目にするようになりました。
物価高で毎日の食費が重くなっている今、家計にとってはかなり大きな話です。
でも、ちょっと待ってください。
🐥ぴよまる:……ゼロじゃないよ?
そうなんです。
政府が現在進めているのは、飲食料品の消費税率を現在の8%から1%へ引き下げ、さらに所得に連動した給付を組み合わせることで、全体として「実質ゼロ」にするという仕組みです。
では、なぜ最初から税率を0%にしないのでしょうか。
調べてみると、スーパーのレジの向こう側に、普段はあまり見えない消費税の仕組みがありました。
今回は、食料品の消費税「実質ゼロ」とはどんな制度なのか、私たちの食卓からゆっくりほどいてみます。
まず大事。「食料品の消費税ゼロ」が決まったわけではない
最初に、現在地を確認しておきましょう。
政府は2026年8月5日、「給付付き税額控除」の制度導入に向けた基本方針を閣議決定しました。
そのなかで、本格的な給付付き税額控除が始まるまでの「つなぎ」として、
2027年4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品の消費税率を1%にする
という方針を示しています。
さらに2027年度から、飲食料品にかかる消費税1%相当分の範囲内で、所得に連動した給付を先行して始めます。
イメージすると、こうです。
現在
飲食料品
消費税率 8%
↓
2027年4月から2年間【政府方針】
消費税率 1%
+
所得に連動した給付
↓
全体として「実質ゼロ」へ
その先には、2029年度から「所得に連動したきめ細かな給付」を本格導入する構想があります。
ただし、ここは大切です。
2026年9月5日現在、税制改正大綱や法律まで成立したわけではありません。
9月4日には自民党税制調査会の幹部会合で税制改正大綱の骨子案が議論されましたが、財源や地方自治体への影響など、まだ調整すべき問題が残っています。
ですから現時点では、
「2027年4月から1%への引き下げを目指して、具体的な制度設計が進んでいる」
と理解しておくのがよさそうです。
食料品の消費税は、なぜ0%ではなく1%なの?
ここで、ぴよまるの疑問です。
🐥:食べ物の消費税をなくすんだよね?
🐔にわのとりさん:正確には、税率を1%にする方針じゃ。
🐥:……。
🐔:さらに給付を組み合わせて、全体として「実質ゼロ」にする。
🐥:だったら、最初から0%にすればいいんじゃないの?
うん。
私もそう思いました。
政府・与党側の説明では、1%とした大きな理由の一つが、実施までのスピードです。
食料品の税率を完全な0%にするより、1%を残すことで事業者のシステム対応などを進めやすくし、2027年4月からの実施を目指す考えです。
でも、ここでもう一つ疑問が出てきます。
🐥:8%を1%にするのと、0%にするのって、そんなに違うの?
数字だけを見れば、たった1ポイントの違いです。
ところが、レジや会計システムにとっては、単純に「8」という数字を「0」に書き換えれば終わり、とは限りません。
現在の軽減税率8%は、あくまで「消費税がかかる取引」です。
1%になっても同じく「課税される取引」であるため、現在の軽減税率の仕組みをベースに、税率や税額計算などを変更して対応できる場合があります。
一方、「0%」という新しい税率を設ける場合には、その0%の取引をシステム上どう区分するのか、請求書やインボイスにどう表示するのか、仕入税額控除や税額計算をどう扱うのかなど、新たな制度に合わせた対応が必要になります。
※ここでいう「0%」は、現在ある「非課税取引」や「免税取引」と同じ意味ではありません。仮にゼロ税率を導入するのであれば、その法的な位置づけや実務上の処理方法そのものを制度として決める必要があります。
🐥:つまり1%なら、「税金がかかる商品」という今の箱は残せるの?
🐶うらのいぬさん:イメージとしては、それに近いわん。今ある8%の箱を1%に変更するほうが、新しく0%という箱を作るより対応しやすい、という考え方なんだわん。
🐔:もちろん、1%でもシステム改修は必要じゃ。何もしなくてよいわけではないぞ。
ここは大切なところです。
「1%ならシステム改修が不要」という話ではありません。
税率が8%から1%へ変わる以上、レジや会計、受発注、請求などのシステムには当然対応が必要です。
ただ、現在の「課税取引・軽減税率」という枠組みをできるだけ利用することで、まったく新しい0%の扱いを設けるより、短い準備期間で対応しやすくする。
それが、政府・与党が「1%」と「実施までのスピード」を結びつけて説明している背景にあります。
ただし、この話は単に、
「システムの都合で1%にしました」
だけでは終わりません。
税率を大きく引き下げると、農家などの事業者が仕入れで支払っている消費税との関係にも、新しい問題が出てきます。
それを理解するには、今度はスーパーのレジから少し離れて、商品が私たちの手元に届くまでの消費税の流れを見てみましょう。
消費税はレジだけで完結していない
たとえば、野菜を作っている農家を考えてみましょう。
野菜を作るためには、
肥料、農薬、農機具、燃料、包装資材など、さまざまなものを購入します。
そして、それらを買うときにも消費税を負担しています。
一方、育てた野菜を販売するときには、その売上げにも消費税がかかります。
事業者が消費税を納める際には、原則として、
売上げにかかる消費税
-
仕入れなどで支払った消費税
=
納付する消費税
という考え方で計算します。
これが「仕入税額控除」です。
ここでいったん、スーパーで買い物をする私たちの目線に戻ってみましょう。
🐥:100円のパンなら、いまは108円だよね?
🐶:そうだわん。
🐥:1%になったら101円?
🐶:税だけを単純に考えれば、そうだわん。
🐥:じゃあ0%なら100円。だったら0%のほうが分かりやすいよ。
🐔:ところが、それはスーパーのレジだけを見た話なんじゃ。
🐥:え?
🐔:そのパンがお店に並ぶまでにも、小麦や包装材、製造設備、運ぶための燃料など、いろいろなところで消費税がかかっておる。
🐥:あ……。ぼくが108円を払う前にも、消費税が動いているんだ。
※すべて税抜き100円の商品を買い、消費税だけを単純計算した場合
そうなんです。
私たち消費者から見れば、
8%なら108円、1%なら101円、0%なら100円。
とてもシンプルに見えます。
でも、その商品がお店に並ぶまでには、生産者、メーカー、卸売業者、小売店など、いくつもの事業者が関わっています。
消費税は、私たちが最後にレジで払う瞬間だけに存在する税金ではない。
ここが、「だったら0%にすればいいのでは?」を考えるうえで、とても大切なポイントです。
「0%になると仕入税額控除がなくなる」は、ちょっと違う
ここで、誤解しやすいところがあります。
ときどき、
「食料品を0%にすると仕入税額控除ができなくなるから、1%を残す」
という説明を見かけます。
でも、これは少し単純化しすぎています。
0%になった瞬間に、仕入税額控除という仕組みそのものが消えてしまう、という話ではありません。
問題になるのは、農家などが実際に仕入れで負担している消費税と、現在利用している課税制度との間に「ずれ」が生じることです。
たとえば農家は、肥料や燃料、農機具などを買うときには消費税を支払います。
一方、食料品の税率を大きく引き下げれば、農産物を販売したときの消費税額は大幅に小さくなります。
原則的な方法である本則課税なら、実際に仕入れで支払った消費税を計算し、売上げにかかる消費税から差し引きます。
仕入れなどで支払った消費税のほうが大きくなれば、条件を満たすことで還付につながる場合もあります。
ところが、農家のなかには簡易課税制度を利用している人もいます。
簡易課税では、実際に肥料や燃料などにいくら消費税を払ったかを一件ずつ計算するのではありません。
売上げにかかる消費税額に、業種ごとに決められた「みなし仕入率」を使って、仕入れにかかった消費税額を計算します。
飲食料品を扱う農林漁業の場合、現在のみなし仕入率は80%です。
つまり、食料品の売上げにかかる税率が大幅に下がると、
実際には肥料や燃料などを買うときに消費税を負担している
↓
簡易課税では、その実額をそのまま差し引く計算ではない
↓
売上げ側の消費税が大きく減る
↓
実際に負担した仕入税額との「ずれ」が大きくなる可能性がある
という問題が出てきます。
🐥:あれ? 「0%にしたら仕入税額控除がなくなる」ってことじゃないんだ。
🐔:そうじゃ。控除そのものが消える、という話ではない。
🐶:税率を大きく下げると、いまの制度のままでは、実際に払った消費税と計算上の扱いがうまくかみ合わない人が出てくる、ということなんだわん。
🐥:なるほど。税率だけゼロにすれば終わり、じゃないんだね。
そのため現在、自民党税調では、本則課税事業者へ移行するための特例や、簡易課税制度の特例なども検討されています。
農林漁業者への給付策も議論されています。
ここは今回の制度を見るうえで、かなり重要です。
「0%だと仕入税額控除ができないから1%にした」
と一言で説明してしまうのは、少し乱暴なのです。
1%にすれば事業者側の問題がすべて解決するわけでもありません。
今回の「1%+給付」という仕組みは、
消費者の負担を実質ゼロに近づけながら、既存の消費税制度との間に生じる歪みをどう調整するか
まで含めて考えなければならない制度なのです。
食料品の消費税は「1%+給付」でなぜ実質ゼロになる?
では、もう一つの疑問です。
🐥:1%払うなら、やっぱりゼロじゃないよね?
🐶:そこで「給付」が出てくるんだわん。
政府の基本方針では、飲食料品にかかる消費税1%相当分の範囲内で、所得に連動したきめ細かな給付を2027年度に先行導入する方針です。
つまり、
税率そのものは1%残す。
その一方で、
所得に連動した給付によって家計の負担を軽くする。
この二つを合わせて、
「全体として飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化」
を目指します。
ただし、ここでも注意が必要です。
これは、
「スーパーで払った1%が、そのまま全員に返ってくる」
という単純なキャッシュバック制度ではありません。
所得に連動した給付ですから、対象者や具体的な給付額などは今後の制度設計を見ていく必要があります。
外食やお酒、新聞はどうなる?
今回の食料品の消費税引き下げで対象となるのは、基本的に現在の軽減税率の対象となっている飲食料品です。
そのため、現在10%の標準税率が適用されている外食は、食料品1%への引き下げとは別の扱いになります。
酒類も現在、軽減税率の対象外です。
一方、現在8%の軽減税率が適用されている新聞についても、今回の「飲食料品」の減税とは分けて考える必要があります。
つまり、
「スーパーで売っているものが全部1%になる」
という話でもありません。
対象品目の線引きも、今後制度が具体化するなかで確認していく必要があります。
スーパーや企業も「税率変更」に対応しなければならない
もう一つ忘れてはいけないのが、実際に商品を販売したり、取引したりする事業者です。
消費税率が変われば、
レジ、POSシステム、会計システム、値札、ECサイト、受発注システム、請求書、経理処理……
さまざまなところで対応が必要になります。
しかも今回は、すべての商品が一律1%になるわけではありません。
企業側は引き続き、
「どの商品に、どの税率を適用するのか」
を正確に管理しなければなりません。
さらに現在は、インボイス制度(適格請求書等保存方式)も導入されています。
インボイス制度では、正確な適用税率や消費税額を取引相手へ伝えることが求められ、事業者は税率ごとに取引を区分して経理しています。
食料品の税率が8%から1%へ変われば、事業者によっては、すでにインボイス制度に対応している会計・受発注・請求システムや税額計算の設定・ロジックなどを、再び見直す必要が出てきます。
🐥:8を1に変えれば終わりじゃないの?
🐶:レジだけなら、そう見えるかもしれないわん。
🐔:じゃが、その「8%」はレジだけでなく、請求書や会計、取引先とのデータにも入っておるからの。
🐥:……いろんなところに8%がいる。
そうなんです。
2019年には軽減税率が導入され、2023年にはインボイス制度が始まりました。
企業はそのたびに、税率区分や請求書、会計処理、システムなどへの対応を進めてきました。
そこへ新たな税率変更が加われば、現場には再び相応の準備が必要になります。
自民党税調では、税率変更時に値札などの変更が間に合わない可能性も考慮し、開始時・終了時の前後2カ月について、一定の条件のもとで従来の税込価格表示を認める「総額表示義務の特例」も検討されています。
ニュースで「8%から1%へ」と聞くと、数字が一つ変わるだけに見えます。
でも実務の世界では、そう簡単ではありません。
税率変更は、レジの向こう側にある仕事の仕組みまで動かす。
その対応コストや準備期間も、制度を実施するうえで無視できない問題なのです。
そして最大の問題。約10兆円の財源は?
ここまで見てくると、家計にはうれしい話に見えます。
でも当然、税収は減ります。
9月4日の自民党税制調査会の幹部会合では、2年間の食料品消費税「実質ゼロ」にかかる規模として、およそ10兆円の財源について政府に説明を求める声が上がりました。
9月5日現在、この財源が最終的に確定したわけではありません。
税収が減る地方自治体との調整も続いています。
政府は赤字国債に頼らない考えを示していますが、
では、どこから約10兆円を持ってくるのか。
ここはこれからの大きな論点です。
そして今、日本では長期金利の上昇も問題になっています。
🔗関連記事:長期金利3%。私たちの暮らしはどう変わる?
国債を増やせば済む、と簡単には言えません。
スーパーで買う一袋の野菜の税金を追いかけていたら、最後は国の財政にたどり着きました。
先日このブログで取り上げた「長期金利3%」や、膨らむ国債費の話とも、ここでつながってきます。
スーパーで買う一袋の野菜の税金を追いかけていたら、最後は国の財政にたどり着きました。
経済というのは、本当に大きなピタゴラ装置のようです。
食料品の消費税は2年後どうなる?
政府の現在の基本方針では、飲食料品を1%にするのは2027年4月から2年間です。
その先には、2029年度から「所得に連動したきめ細かな給付」を本格導入する構想があります。
つまり今回の食料品減税は、恒久的に消費税を1%にする制度として位置づけられているわけではありません。
本格的な給付付き税額控除へ移るまでの「つなぎ」です。
だから、
「2年後、食料品の消費税はどうなるの?」
という疑問も当然出てきます。
ここも、今後の税制改正や国会審議を追いかけていく必要があります。
食料品の「実質ゼロ」は、単なる消費税減税ではなかった
最初は、単純な疑問でした。
🐥:消費税をゼロにするなら、0%にすればいいのに。
でも調べてみると、
消費者の負担
↓
生産者の仕入れ
↓
仕入税額控除
↓
簡易課税
↓
農林漁業者への支援
↓
インボイス・企業のシステム対応
↓
国と地方の税収
↓
約10兆円の財源
と、次々につながっていきました。
消費税は、レシートに書いてある「8%」だけではなかったんですね。
🐥:食べ物の税金の話をしていたはずなのに、ずいぶん遠くまで来たね。
🐔:税とは、暮らしと国をつないでおるからの。
🐶:だから「何%になるか」だけじゃなく、その向こう側を見ることも大切なんだわん。
😸うちのねこさん:ところで、オレのカリカリも1%になるニャ?
🐥:猫用フードは軽減税率の対象外です。
😸:……。
🐥:選ばれし者でも、税制には勝てません。
食料品の消費税「実質ゼロ」は、まだ制度設計の途中です。
これから税制改正大綱、法案、国会審議と進むなかで、内容が変わる可能性もあります。
だからPralinePlanetでも、この話は追いかけていきたいと思います。
ニュースで「実質ゼロ」という言葉を見かけたら、
「あれ? でも税率は1%なんだよね」
と、ほんの少し立ち止まってみる。
そこから先に、ニュースの見え方を変えてくれる「なぜ?」が隠れているのかもしれません。
参考資料・関連情報
この記事は2026年9月5日時点で公表されている政府・国税庁などの情報をもとに作成しています。制度の詳細は今後の税制改正や国会審議によって変更される可能性があります。
🔗内閣官房「『飲食料品に係る消費税率の引下げ』及び『給付付き税額控除』(政府の基本方針)について」
🔗自由民主党「食料品消費税『実質ゼロ化』へ 小野寺会長が『議長案』を説明」
